翌日。難しい表情の雪男はベッドの上で正座する自分の兄を睨み付けていた。昨日は差し出される儘に少女から金を受け取ってしまったが、思えばそういう問題ではないのだ。少女にだって家族はいる、つまりこれは世間一般でいう誘拐なのではないかと。少女は身丈に合わない金額の金を持っていて荷物はなくその身一つ。そして帰る家がないといえば導き出される答えは一つ、少女は家出をした。
「今からでも遅くない。元いた場所に返してきて」
「拾っておいてすぐほっぽりだすなんて出来るわけねーだろ。第一、何で家出って決めつけてんだ」
「あんなに金があるなら家出先は大体漫画喫茶だろ。だけどあいつはずっと公園に居た、何処に行けばいいか分かんねー顔してた」
ぺたぺたと足音を鳴らして部屋に入ってきたのは件の少女だった。燐の使い魔であるケットシーのクロが兄弟以外の来客に興味を持ったらしく少女の足元を彷徨いている。
「おー、朝飯ちゃんと食ったか?」
少女に気付き声を掛けた燐の言葉に少女は戸惑いの表情を浮かべる。その表情を見たクロがゆらりと二つに分かれた尻尾を揺らしながら燐を見上げる。
「はんぶんも たべてなかったぞ!」
雪男にも少女にも聞こえない声で少女の朝食時の様子を告げるクロに燐は溜め息を吐いた。
女の胃袋の容量は分からない、少し多く盛り付けてしまったか。
「あー…腹は一杯になったか?」
少女は直ぐに頭を縦に振った。ならば皿を片付けに行こう。残した分は自分が食べれば問題無い。そう思って正座を崩した燐の首根っこを掴んだ雪男は営業スマイルとも呼べる作り笑いを浮かべながら少女に声を掛ける。
「まずは君の事を教えてもらいたいな。これからについても話し合わなきゃいけないしね」