土砂降りの雨では傘を差す意味は大して無いにも等しい。風はない為肩や頭を濡らすことはなかったが、サンダルをつっかけて走って来た足元は物の見事にびしょびしょになっていた。じっとりと湿る足元に呆れたように眼鏡を押し上げながらくどくどと文句を垂れる雪男の姿が脳裏に浮かび自然が舌打ちが漏れる。アイツの説教はジジイの説教より遥かに嫌いで苦手で、呆れる程に理にかなっている。だからこそ、燐は同じ双子の筈なのに自分とは真逆でねちねちと精神的な攻撃を仕掛けてくる雪男の説教が嫌いだった。

練りに練った水飴が垂れているかのように真っ白な世界の中を燐は必死に足を動かして先程足を止めた公園へと向かった。真上でごろごろと大雨にふさわしい雷鳴が出番を今か今かと待ち構えているかのように低く唸る。
怪我をしても直ぐに治ってしまう少々不思議な体質で、刀を抜いてからはその体質は強化されつつあったが果たして雷にこの身体は耐えうるのか。推測をするも実践しようと思う程燐は馬鹿ではなかった。

「おい!」

公園は雨によって足元がどろどろのぐちゃぐちゃになっていた。テレビで見た事がある、水捌けが悪いのか辺りは田植え前に機械で土を混ぜた後の田んぼのように水浸しになっていて、もし燐が今サンダルではなく長靴を履いていたとしても踏み入りたいとは到底思えない程に悲惨な景色になっていた。
これは雨が止んでも直ぐには遊べまい、そう考えながら燐は迷う事なく公園の中へ足を踏み入れあちこちに出来ている水溜まりを避けながら少女の姿を探した。大分深く考え事をしていただろうから自分が去って雨が来るまで公園にいたに違いない、きっと何処かで雨宿りをしている筈。家に帰ったという発想は何故か浮かばなかった。彼女に帰るべき場所はない。燐の第六感は確かにそう告げていて、燐自身もその直感に反論を述べる気持ちはさらさらなかった。
彼女を見たのは今日が初めてなのだから勿論裏付けも証拠もない。しかしいつもは頼りない自分のシックスセンスが今日は冴えに冴えている気がする、これも燐の直感だった。

「……いた」

少女は、いた。
迎えを待つかのように、隠れんぼの鬼に見つからないように、寒さから身を守るように。青い象を象った滑り台の下で小さな身体を縮こませ、膝を抱えながら睨むように足元を見下ろしていた。雨宿りをしている彼女の頬を濡らすのは雨なのか、それとも。
じっとりと濡れた足で泥水をばしゃりと左右に跳ねさせて滑り台の元へと走り寄る燐を驚いたように見上げる少女に、雷がぴかりと光を放ち少女の目尻に浮かぶ涙を浮かび上がらせた。

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