・少し性転換ネタが絡んでます


名字名前、朝起きたら男になってました。
まだ朝というには早い時間。ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえる中、たまたまトイレに起きた私に待っていたのはある筈もない息子さんとの対面だった。
一瞬夢かと思い頬をつねってみるもじんじんとした痛みだけが残るだけで目が覚める気配はない。
スッと一気に尿意が引いていくのと同時に背筋に嫌な汗が流れる。

「(何だ、これは)」

胸の膨らみが無く、女子よりも存在が目立つ喉仏。息子さんがあるせいで落ち着かない股。サイズが合わずパッツパツのパジャマ。
トイレの流し台の鏡に映っていたのは百八十センチ程の長身で奥村兄位の髪の長さの男子の姿の私だった。
放心した儘部屋に戻った私は壁を向いて眠っている出雲様の寝顔を見ていると、枕元に置いた私の携帯がちかちかと点滅しているのに気付いた。
携帯を開いてみればメールが届いていたらしい、送信元の名前はメールアドレスではなく「メッフィー」と書かれた。誰だか直ぐに分かってしまう辺り何か気に食わない。

温室へ。部下を寄越したので私の部屋に来て下さい。

確かにこの儘朝を迎えたらこの女子寮は大騒ぎになるに違いない。サイズが小さくジャケットもパッツパツになってしまい、仕方無く先程まで被っていた毛布を身体に巻き付け財布と携帯に武器である銃を携え初めての任務の時に木下さんから頂いた温室直通の鍵を使って温室へと向かう。

「名字様、お待ちしておりました。我が主がお待ちです、参りましょう」

温室で待っていた理事長の部下に連れられ、何やらやたらと豪華な作りの鍵で温室の扉を開けた先は理事長室だったらしく執務机と応接用のテーブルと椅子が置いてある部屋へと通された。シャンデリアが点された灯りの下、理事長は執務机の椅子に座って地平線の向こうからやって来る青白い夜明け窓際を眺めていた。

「いやはや、実に結構な結果を得られた」

「結果って…、…ッ!?」

顎髭をざりざりとなぞりながら至極満足そうに呟いた理事長の言葉に反応するも、そこで私は初めて自分の声がアルトの少年のような声になっているのに気がついた。
驚きのあまり喉仏が浮く喉を撫でていると肩を震わせて理事長に笑われたので、意識を理事長へと戻して再度彼へと問いを投げた。これはどういう事なのか理事長は知っているのかと。
理事長は笑った、腹を抱えて笑った。五分程ひいひい言って死にそうな位に笑いに笑って、やっと私に向き直ったかと思えば満面の笑顔でこう言った。

「私がやりました」

私は理事長を殴った。窓際に立っていた理事長は椅子から転げ落ち、私は振り抜いた腕が女の時よりも早く勢いがあった事に驚いた。


「……つまり、昨日私が受けたインフルエンザの予防接種に使われた注射は予防接種の物では無く理事長が開発した性転換の薬の注射だった、と?」

「物分かりが良くて結構。その通りです」

応接用の椅子に座った私の格好はパッツパツになって伸びきってしまったパジャマからサイズぴったりの正十字学園高等部の男子の制服に身を包んでいた。
いつもより短い髪の毛が気になりつい触りたくなってしまうのを我慢しながら理事長の話を聞けばただの好奇心故の理不尽極まり無い行いだった事が分かり、思わずそのいけすかない顔を蹴り上げたくなってしまう。

「というわけで今日一日はその儘生活していただけます?ああ、勿論授業には出なくて宜しいですよ」

女の私は急な任務で今日一日戻らない、という事で学校も塾も公欠にしてもらえるらしい。少々腑に落ちない所もあるが、センセイの居た修道院へ行った時に貰ったセンセイの研究資料を参考に図書館で調べたい事が山積みだったので丁度良い。今日は一日図書館に引き込もってやろう、腹いせに理事長のアホ毛をぐいぐい引っ張りながら私は今日の予定を早々に決めて理事長室を後にした。


暖房と加湿器が何台も稼働している図書館の暖かさについうたた寝をしてしまったらしい。パッと頭を上げた時には無人だった図書館にはちらほらと本を借りに来た人、勉強をしに来た人、調べ物に来た先生など様々な人間が館内を行き来していた。壁に掛かった時計は既に四時に迫っていて随分と居座ってしまった、と考えを巡らせ手元にあった本を棚に戻しに席を立つ。本を抜き取った棚を覗き込むと棚に並ぶ本と睨めっこをしている女生徒に思わず二度見してしまう。

出雲様だった。
踵を浮かせ背伸びをしながら右腕を一杯に伸ばして一番上の棚にある本を取ろうとして苦戦しているらしい。頼めば別の棚の所にある脚立を持って来てくれそうな朴さんが隣に居ない事から、きっと本を借りてから塾に行こうと考えて来たのかもしれない。
気が付けば小さく跳ねて本を取ろうとする出雲様の姿にいつもの癖で身体が動いてしまっていた。出雲様の細い指先が僅かに触れるだけの本へと横から手を伸ばせば、女の時よりも背の高いお陰ですんなりと本は棚から離れ私の掌中へと収まる。
ぽかんと呆けた表情を此方を見上げる出雲様に向かって躊躇う事なく本を差し出した。

「どうぞ」

「あ…」

「取りたかったの、これだと思ったんですが…違いました?」

「いや…あってる、けど」

出雲様が私を見上げる姿にどきりと胸が高鳴り思わず顔をじっと見つめてしまう。何も言わずに顔をじろじろ見る初対面の男子生徒に怪訝に思ったのか「何よ」、と眉を寄せてじとりと此方を睨む出雲様にふるりと首を横に振って本を手渡す。胸のどきどきはまだ治まらない。

「次はちゃんと脚立使って下さいね。じゃ」

「あ…ちょ…!」

自分が持っていた本を棚に戻すと出雲様が何かを言おうとしているのも聞かずに出入口の扉へと向かう。ちらりと此方に視線を向ける司書に長居してすみませんの意を込めて小さく会釈して図書館の扉を開けた。

男になっている間は理事長室を拠点にする事を許され、理事長の部下が使っていたものと同じ鍵を使って無人の理事長室へと帰って来る。どうやら部屋の主は外出中らしい、少しだけ調子に乗ってふかふかの執務机の椅子に身を沈める。ネクタイを解いて菓子やファンシーなオーナメントが所狭しと並ぶ机に放って背凭れに体重を掛ける。冬場の日没は早く、まだ四時過ぎだと言うのに既に空は暗く影を落とし始めている。

「ふふふ、出雲様可愛かった」

ツインテールとスカートを揺らして跳ねるあの御姿は滅多に見られるものじゃない。高い所にある物を取りたい時は私が真っ先に脚立か踏み台を持って来るから、跳ねる必要も無い。
少しだけ、ほんの少しだけでいい。今日一日私が居なかった事で「アイツが居ないと色々と不便ね」と朴さんにぼやいて下さっていたりしたらすごく嬉しいのに。
ああ、それにしても男の身体って本当に便利だ。自分自身の身体に惚れてしまいそうだ、出雲様との約十五センチの身長差最高!

「待てよ。今の私が百八十位なら勝呂と同じ位で……志摩より、大きい事に……ふふふ、ふは、あはははははっ!!」
ざまあ!志摩ざまあ!ねえねえ男になった女に身長越されてどんな気持ち?ねえ、今、どんな、気持ち?
出雲様への愛と志摩ざまあな気持ちで心が一杯になって満たされた瞬間、ふと気付いた。先程までサイズぴったりだった筈の制服がぶかぶかになっている気がする。短い筈の髪が胸まで伸びて視界の隅にちらちら映り込んでいる。股間の違和感が消え、新たに胸に違和感を感じる。Yシャツの中を覗き込めば昨日の夜まではあった胸の膨らみが戻って来ていた。何故だろう、元来自分の物だったものに違和感を感じるのは。

「あるぇー…?」

こうして私はたった三十秒の志摩ざまあタイムを皮切りに元の姿に戻ってしまい、直後に部屋に戻って来た理事長に椅子を占拠しているのを見られぶかぶかの男子の制服を着た儘ネチネチと説教される羽目になった。
そういえば私に盛った性転換の薬は結局何に使うんだろうか。



梨恵様リクエストの「出雲様で、夢主がメフィストにいたずらか実験台にされて一時♂化。出雲様にアタックしちゃう?!」でした。
性転換ネタに使われる薬の実験台になってもらいました。これから改良が加えられあの飴玉になる、という流れで書かせていただきました。
♂化おいしいです、書いていてとても楽しかったです!

リクエスト有難う御座いました!

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