・拙宅の柔金蝮の年齢差について

年末年始の大掃除、もとい部屋の模様替えをしていたら暫く使っていなかった棚から懐かしい物が出て来た。
日陰で保管されていた為か少々時間が経っているにも関わらず、色褪せや日焼けもないそれは何の変哲もない一枚の写真だった。お揃いの黒いTシャツを腕を通し汗だくになりながら顔を寄せ合ってピースサインを作っている数人の少年達。その中でも一際目立っている真ん中にいる少年に指を這わせる。遠慮がちに、それでも勝ち誇ったかのようにはにかむその人は今正十字学園に通っている一年の男子の兄にあたる。兄と、その隣でふてくされている私の妙な関係について、少しだけ話をしようと思う。


高校三年の春。入学式を終えてそれぞれのクラスに向かう沢山の生徒達を二階の渡り廊下から窓を開けて見下ろしていれば、黒髪や茶髪の中で一際目立つ目の覚めるような金髪が垣間見る事が出来た。

『ほんなら先輩。弟んこと頼みますわ』

『あの申は志摩家で一番阿呆やから、先輩が面倒見たって下さい』

各々の卒業式の日、二人の年長者は同じく卒業証書を貰った私に向かってそう言った。いつも顔を合わせる度にいがみあっていたくせに、変な所は息ぴったりだった二人を思い出してふふふと笑みが零れる。蝮が卒業してから早一ヶ月が経とうとする。あーあ、蝮をぎゅって抱き締めたい。
渡り廊下を歩いて来た担任に授業が始まると告げられ、私は新入生の群れから目を離しがらがらと音を立てて窓を閉めた。

「新入生歓迎会に…?」

「そう!ボーカルが花粉症で歌えなくって…頼めないかな?」

放課後。同じクラスの子に頼み事があると頭を下げられたので何事かと聞いてみれば新入生歓迎会でやるバンド演奏のボーカルの代役をやれと言われ、私は少々困惑する表情を素直に顔に浮かべた。
その表情を見たクラスメイトに奥の手とも言わんばかりに二年前の文化祭のカラオケ大会に私が出た時の事を持ち出し、私は勢い良く机に顔を突っ込んだ。あれはメフィストとの賭けに負けた罰ゲームだったのだ、まさかあんな拙い歌唱力で準優勝してしまうとは思ってもおらず私は準優勝のトロフィーを抱えて茹でタコの様に赤面してしまった。そうか、二年前か…そりゃあこの子も知ってる筈だ。
暇だからといって無闇に賭けをしてはいけない。今度からはジュースとかお菓子にしよう、私は手を合わせてこれでもかという位に頭を下げる同級生を眺めながら決心を固めた。



翌週、時間にして五分の羞恥心は思わぬ収穫を得た。新入生歓迎会が終わった放課後、図書委員会の顔合わせに集まった面子の中にそいつは居た。簡単な委員会活動についての説明と恒例の委員長と副委員長の座を押し付けあう醜い戦争が始まる。私は無難に書記の座に就き図書館には無い黒板の代わりに持って来たホワイトボードに曜日別の雑務当番の割り当てを書き込んで行き、決まった所から担当の先生に提出する書類に当番の名前を書き込んでいく。

「…あらまあ」

金曜日の欄につらつらと並んだ見知らぬ名前の中で、私の名前の下にはあの志摩金造の名前が連なっていた。

「先輩っ」

廊下を歩く私を塾に通じる鍵を片手に握った志摩金造が追い掛けてくる。此処で何か接点が持てるなら良いに越した事はない、振り向いて用件を問えば彼はきらきらと顔を輝かせながら拳を握り締めた。

「歓迎会で先輩が歌っとったバンド、俺も好きなんです!」

「へぇ…マイナーなインディーズなのによく知ってるね」

「歌ごっつ上手ぁて、尊敬しました」

「そろそろ塾の時間でしょ、早く行きなよ。誰も来ないか見ててあげるから」

歌がなんちゃらの所は然り気無く交わしつつ塾を行くよう促せば何でそれを知っとるん、と言いたげな顔を浮かべながら渋々鍵を近くにあった視聴覚室の鍵穴に差し込み九十度に捻った。

廊下での邂逅を皮切りに志摩金造は私の周りをちょろちょろするようになった。宥めるように「志摩くん」と呼べば「金造て呼んで下さい!」と返された。食堂で一緒にご飯を食べたり図書館でこっそり菓子を盗み食いしたり。金造が二年になって塾の勉強が一段落ついた所で休日には二人でライヴに行ったり図書館で金造に勉強を教えたり。
幸か不幸か三年の時はクラスが一緒になり、金造はあんぐりと口を開けていたのをよく覚えている。

「また留年なったんですか?俺とタメとかシャレならんですよ先輩」

同い年になった子達は先輩呼びから徐々に名字の呼び捨てになっていくのに、金造だけは律義に私の先輩を通していた。その年の一月には祓魔師試験に合格し下二級祓魔師となった金造は任務の傍ら、仲の良い友達とバンドを組み文化祭に向けて練習に練習を重ねていた。バンドの皆が練習に精を出し過ぎてテストで赤点を取らないように定期的に勉強を教えて影からサポートをしていた。

文化祭当日、ステージの袖で私の分まで作ってくれたらしいお揃いの黒いTシャツを着て緊張した面持ちで出番を待つ皆の顔を見ていれば、金造に徐ろに腕を引かれステージがある講堂の最前列に座らされた。

「俺、今日は先輩の為に歌うって決めててん」

ざわざわとした喧騒の中で囁かれた言葉の意味は緞帳が上がったステージの先にあった。ベースやギター、ドラムが奏でる曲は私が新入生歓迎会で歌ったものや金造と行ったライヴで聴いたものだったり、互いにCDを貸し合って聴いたバンドの曲ばかりだった。ステージの真ん中でライトの熱で汗を流しながら一曲一曲を心を震わせて歌う金造の歌声は私の目に強く焼き付き、手拍子をするのも忘れただただ優しく力強く歌う金造に見入っていた。

「先輩!どうでした?ちゃんと俺の歌、聴いてました?」

「…ん。金造、すごくかっこよかったよ」

出番が終わった後、ステージ袖に向かった私に金造が詰め寄って来た。この三年で随分遠くなってしまった金造の頭を撫でながらそう言ってやれば、ステージに立った時からずっと強ばっていた金造の表情が漸くへにゃりと崩れまたいつもの様に先輩先輩と尻尾を振って来た。


「先輩!」

四月の入学式の時のように渡り廊下の窓から出て来る生徒を眺めている私に走り寄って来たのは卒業おめでとうと書かれたメッセージ付きのバッジを付け、円筒に入った卒業証書を手にした金造が立っていた。三月初めの今日は卒業式、私の同級生達とは此処でお別れだ。
今日は仕事で来れない志摩家ご両親の代わりに柔造が来ているらしいが彼に会うのはこの後でも良い、既に柔造とはメールでこの後会う約束をしてある。

「先輩、俺決めた。京都に帰ったらまたバンド組んでボーカルやる!」

「へぇ」

「先輩はもう十分超えとるて言うてくれはったけど、俺はまだまだや。先輩、俺、頑張るから…やから……先輩?」

差し込む日光はとても暖かくて心地良いのに、窓から吹き込む風はまだ少し寒い。がらがらと音を立てて窓を閉じて金造と向き合った私を見て金造が目を丸くさせた。

「先輩、卒業証書は?バッジはどしたん。教室寄った時には先輩の机には何も無かったんに」

「金造、話があるの」

とっても大事な話。
金造の話を断ち切って話を切り出した私に金造は一瞬眉を寄せるも話の続きを促して来たので、私は口を開いて話を始める。
柔造も蝮も知っていて、金造だけが知らない私の細やかな秘密の話を。



空蝉様リクエストの志摩金造で「BD企画SSの金造さんお話の夢主さん」でした。
性転換の方でも神出鬼没夢主を扱うので、ならば夢主に懐いた切っ掛けでも書いてみようと思い付き高校生金造を書いてみました。大丈夫だったでしょうか…?
いつもご訪問有難う御座います!空蝉様の拍手コメには何度お力を頂いた事か…。
だ、だいすき…ですと…。私も空蝉様だいすきです´▽`
リクエスト有難う御座いました!

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