目の前には紫の猫のマスコットキーチェーン。買ってきた溶けかけのアイスを食べながら思わず頬を押さえてしまう。初めての出雲様とお揃いのものを手に出来たのだ、浮かれずにはいられない。
六つ入っていたファミリーパックのアイスは帰り道、わざわざ女子寮まで送ってくれたゴ、勝呂に半分渡してしまった。何で三つ渡したんだろう、二つで良かったじゃない。ゴ、勝呂と三輪くんの分の二つで。どうして三つくれと言ってきたゴリ、勝呂の要求を素直に呑んでしまったのか。
八割方は暑さに対する八つ当たりなのか、で溶けかけているアイスに対しての不満をぶち撒ける出雲様に例の猫を見せればたちどころに機嫌を直し朴さんとどの色にしようかあれこれと悩み始める。
一時間経っても決まりそうにないので適当にあみだくじを使って決めさせた所、出雲様は黒、朴さんは白、私が紫という配分になった。
キーチェーンは鞄に取り付け、チェーンから外れないよう金具をしっかりと接着剤で固めているのを出雲様に見られ、ドン引きされた挙げ句に接着剤臭いと腰を蹴られてしまった。それでもお耳は真っ赤なんだから、何というか、何とも言えないというか、私まで照れてしまう。朴さんの鞄にもゆらゆらと白猫が揺れている。接着剤を勧めたら引きつった笑顔でやんわりと断られてしまった。鞄に付けてるものに接着を施すのは付けたものを落とした時の喪失感が嫌いな私だけがやる芸当なのかもしれない。
「えええー」
「名前煩いフルーツ牛乳買ってきて」
「うわーん出雲様冷たい極悪非道マロま…らじゃーです今すぐ行って参ります」
期待は脆くも儚く砕け散った。
昨日猫を見せた時機嫌良くなったし、朴さんが鞄に付けてたからきっと付けてくれるって、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待してたのに!
やっぱりあれか、接着剤が悪かったのか。ていうか接着剤を金具に付けて外れないように固定したあの行動の何処が悪いのかと私は盛大に開き直りたい。相手が出雲様だからしないけど。折角のお揃いだから落として涙を飲むのは絶対に避けたい。…こうなればいっそ接着剤で鞄に引っ付けてやろうか…!
学園に着いて早々出雲様にパシられた私は食堂の近くの廊下にある自動販売機にパックのフルーツ牛乳を買いに走る。百円玉を投入してフルーツ牛乳のボタンを押して取り出し口からパックを取り出す。ゆらりゆらりと揺れる紫の猫は出雲様の髪の色と同じで、ちょっと妬ける。
出雲様がお付けにならないなら私も外そうかなあ、でもそしたら何だか朴さんが可哀想だし…と猫の処遇について考えを巡らせながら私のクラスに入る。
「出雲ちゃん、ごめん…のり貸して?」
「仕方ないわね…はい」
「出雲様、フルーツ牛乳で……でででででで!!」
授業で配布されたプリントをノートに貼り付けようとペンケースを覗き込んだ朴さんが一瞬顔をしかめ、直ぐに眉を下げて出雲様に声を掛ける。眉を吊り上げながらも笑いながら自分のペンケースを取り出す出雲様の机に近寄った時。出雲様が取り出したペンケースについた見慣れない物体が視界に入り私は思わず数歩後退ってしまった。
ペンケースのファスナーのツマミ部分に取り付けられた黒い猫がにんまり顔でゆらゆら揺れながら私を見つめる。鞄に付けてないと思ったらこんな所に付けてるこの人!どんだけ嬉しかったんだ!!
「は、早く寄越しなさいよ馬鹿!ノロマ!」
「いたいっ!いたいです出雲様!」
「出雲様と名前ちゃん、仲良いねー」
「何処が!朴!ちゃんと目開きなさいよ!」
「いたたたギブギブギブ!」
私が黒猫の存在に気付いた事を察するなり出雲様は目を吊り上げながら私にヘッドロックを仕掛けてくる。ぎゅう、と締まる首に悲鳴をあげて出雲様の腕を叩く。苦しいし痛い、けどそれ以上に近い近い近い近い!背後からふわりと出雲様の香りが鼻孔を擽ってきて私の顔が一気に朱に染まる。あうあう言いながらもがく私の手からフルーツ牛乳を奪った出雲様は私達を見てのほほんとした微笑みを浮かべる朴さんに黒猫が揺れるペンケースを投げ付けた。そっぽを向いた出雲様の耳は真っ赤で、私の頬を連動するかのように更に赤みが増していく。そんな私達を見ながら出雲様のペンケースを開いた朴さんは黒猫を指先で弄びながら二人とも林檎みたいと言って笑った。
憂依様リクエストの「出雲様シリーズの出雲ちゃんで出雲様シリーズ『夏ですね、出雲様!』のアフターストーリー」でした。
塾でペンケースについた黒猫に気付いた志摩に「お前にはもう一生アイスを奢らん」とか言いながら恨み言を並べる夢主の姿が浮かびました。出雲様シリーズの志摩は何処までも不憫な男です。でもめげない。
リクエスト有難う御座いました!