昼間の購買は酷く混み合う。お金持ち学校と言えども集うのはお嬢様や坊っちゃんだけやない。各々が両親の仕送りを毎月遣り繰りして自炊したり購買のパンや弁当を購入して正午の空腹を満たしている。だからこそ昼間の購買でのランチ争奪戦は気合いを入れて望まねばならない。

「(あー…今日も可愛え)」

今日も今日とて賑やかな購買のスペースではずらりと並んだ弁当やパンを買う為に学年問わず沢山の生徒が訪れる。坊と子猫さんのサポートのお陰で本日の日替わり弁当を無事ゲットした俺は、購買に訪れるようになってからよく目にする女生徒へと視線を送る。
友人らしき女生徒と談笑しながらレジに並ぶ彼女の手にはいつものようにメロンパン。一年のクラスをざっと見て回っても彼女の姿は見つけられなかったので、必然と上級生となる。結局上級生のチェック不足のせいで彼女の名前を明かす事は出来ず、仕方なく俺は彼女をメロン先輩と呼んでいる。

「また見とんのかきもい」

「坊、会計終わった第一声がそれて…志摩くん傷付きます」

「さよか」

「坊の優しさ、ログインプリーズ!」

気色悪い、と坊から拳骨を食らっても上機嫌でいられるのは今日もメロン先輩が無事にメロンパンを買うてる所を見届けられたからや。毎日毎日じろじろ見とるんは気持ち悪いからさっさと声掛けてきい、と溜め息を漏らす坊は俺の性格を分かっていて言っているに違いない。ほんまに坊の優しさ何処行った。家出か、家出したんか。

「志摩さん、好きな子には奥手ですからね」

「奥手いうかただのヘタレやろ」

「坊はシュガーレスガムか!」

「男に甘くして何の得があるんか説明してみい」

その儘移動した教室でもそもそとチキンライスを咀嚼しながら辛辣な坊の言葉に心の中で涙を流す。俺かてメロン先輩に話し掛けたいし、友人に向けとる眩しい笑顔を俺にも向けて欲しい。せやかていきなり下級生に声掛けられてびっくりしたり怖がってもうたりしたらもう俺立ち直れへん気がする。それが怖ぁと中々声を掛ける勇気が出ない。めそめそうじうじと一人どんより湿った空気を背負う俺に子猫さんが苦笑を漏らした。

「お互い共通の話題を持ってみる、いうんはどうです?」

「子猫さん、それどーいうこと」

「その先輩、いっつもメロンパン買うてるんですよね?ほんなら志摩さんもメロンパン買うて話題を作ったらええんです」「てっ、天才や!恋愛マスターやな子猫さん!!」

俺もメロンパン買うてメロン先輩に「メロンパン好きなんですか?俺もメロンパン好物なんですー」て声掛けて接点持ったらええねや!
思わず声を張り上げて席を立った俺に周りで弁当やパンを食べていた生徒達の視線が集まる。明日からやってみようと意気込む俺に再び坊の拳が落ちてきた。



棚に三つ程置かれとったメロンパンと、適当に選んだパン2つを抱えて会計を済ませた。レジ袋のがさがさとしたせわしない音が俺の心を投影しているようで何だか落ち着かない。弁当争奪戦を終えて会計の長い行列の中にいる坊達を待ちながらメロン先輩がレジに並ぶのをいつものように待っていると、パンが置かれている棚の前で項垂れるメロン先輩とその友人の姿を見つけた。はふ、と薄い桜色の唇から漏れた吐息は重くいつものようなふんわりとした笑顔は何処にも見られない。どないしたんやろとざわめく心を更に煽るように友人がメロン先輩の肩を軽く叩いた。

「いいじゃない、一日くらい無くたって」

「う、うー…これが楽しみで四時限目頑張ったのに…」

「はいはい、チョコチップじゃ駄目なの?」

「チョコチップは邪道。私は普通のがいい」

何やらチョコがどうとか普通がなんたらと話とる。二人の視線を辿った先に俺はぎょっと目を見開いた。三つ程あったメロンパンがすっかりなくなっていて、先輩の手には財布しか握られていない。なくなっているという事は誰かが買っていったという事で、つまりは売り切れという事で。メロン先輩の元気がない理由ってもしかして、えええええ。
自分の足に当たって音を立てるレジ袋にざわりと心が波立つのを感じて無意識の内に唾をごくりと飲み込む。メロンパンは売り切れとって、メロン先輩はメロンパンが無くて落ち込んどって。そのメロンパンは今、俺が持っとる袋の中にある。
いけない事をしてしまったような気持ちになり袋を握る手にじわりと手汗が滲んでいく俺を余所にメロン先輩はメロンパンがないならコンビニに行くとまで言い出している。あかん、昼休みとはいえコンビニまで行っとったらゆっくりご飯食べる時間無いですやん。それにメロン先輩ぽやっとしとるから帰り道何も無い所でこけたりしそうやし…!
ぎゅう、と袋を強く握り締めてから袋の中に手を突っ込んで一番大きい其れを潰さんように掴んで取り出す。網目が入った表面のクッキーの生地を見つめながら深呼吸を二、三回。人混みの向こうで俺を見守っとる坊と子猫さんの視線に後押しされて俺は一歩、足を踏み出す。

「あ、あの!」

ずっと遠くから見とったメロン先輩のふんわりした笑顔を見られるまで、あと十歩。



萌様リクエストの「志摩廉造でヘタレ志摩君が頑張る」でした。
この後志摩くんはメロン先輩に「メロンパンが好きな優しいピンク髪の後輩くん」と評されピンクメロンくんと呼ばれることでしょう。
なんというメロンカップル…。

リクエスト有難う御座いました!

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