第二部隊の部署で他の隊の事務と一緒に今月の予算の割り出しにひいひい言いながらキーボードを叩いていると、霧隠隊長がドアを蹴り開けて部署へと入って来た。今日の隊長はいつにも増して機嫌が悪いのは一目で直ぐ分かった。目が合ったらあの世行き、藤本獅郎にチクったら…という隊長の脅迫めいた言葉が脳裏にちらつき私はぶるりと身体を震わせパソコンと睨みあった。

三十分経ったか経たなかったか。無事予算の書類を完成させた私達が席を立ったと同時に書類を持った隊員が霧隠隊長の元へと向かう。
私の隣に居た事務の人が扉に手を掛けた瞬間、視界の端で何かが勢い良く飛んで行き書類が納められた棚へと突っ込んでいった。
がしゃん、ばりん、ばさばさ。静かだった部署内に色々な音が交差し一気に緊張感が高まっていく。
た、隊長。あれ程他の奴にチクんなって言ってたくせにとうとう他の隊の奴がいる前で暴力奮い出した!
ちらりと隣の人を見てみるとぽかんとしていた表情から事情を読み取ったらしく恐怖へと染め上がっていく。やばい、これは非常にやばい。
緊張感のせいで声すら出す事も出来ず、棚に吹っ飛ばされた隊員を見ているとそれは先程隊長に書類を持って行った隊員だった。
更に私の肝を冷やしたのは扉の向こうから支部長と最近第一部隊隊長に任命された雪男くんの話し声が聞こえて来た事だった。ドアノブを握る事務の人の手に力が入った。やばいやばいやばい、殺される、霧隠隊長に殺される!

「支部長!今すぐ来て下さい!」

勢い良く扉を開け放った事務の人が視界には見えないが第二部隊の部署の近くの廊下にいる支部長へと声を張る。恐れていた事が起こった、ゆらりと立ち上がった霧隠隊長の姿を視界の端に捉え私の唇はがたがたと震え始める。
こんな時、トラブル回避する方法なんて私は知らない。

背後から霧隠隊長が事務の人に刀を振り上げたのと、支部長が不思議そうな表情をして部署の中に顔を覗かせたのはほぼ同時の事だった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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