結局繋いでいた手が離れたのは目的地である駅ビルの中にあるバスアイテム専門店の前に着いてからだった。するりと離れていく温もりに文句も何も言えなくて、多分真っ赤になっているだろう顔を伏せながら専門店へと足を踏み入れる。
目当ての物を無事購入し燐さんと私の服を数点購入してから駅ビル内にあるファミレスで昼食をとった。運ばれてきたカルボナーラを食べながら唐揚げ定食の唐揚げを口に運ぶ奥村さんを眺めていると少し眉を寄せてから味噌汁に手を伸ばす。が、表情は段々険しくなっていき最後には箸を置いてしまった。
「口に合いませんか?」
小声で問い掛けると水を飲みながら首を縦に振るので紙ナプキンでフォークを拭いてカルボナーラの皿を差し出す。え、と言葉を詰まらせる奥村さんに笑いながらカルボナーラを食べるよう勧め無理矢理皿と定食の盆を交換させる。何か言いたげに此方を見つめていたものの箸を同じように紙ナプキンで拭いてお新香を詰まんで口に放り込む私を見て諦めたらしく、フォークを持って控え目にカルボナーラを巻いて口に運ぶ。
「……」
「どうですか?」
「…普通」
そう言って奥村さんはもそもそとカルボナーラを食べていく。確かにカルボナーラは普通の味付けだから奥村さんが食べられないわけがない。
さて、問題はこの唐揚げ定食な訳だが。奥村さんの明らかな拒絶の反応を見た後なので恐る恐る唐揚げを摘まみ一口かじる。
「……え?」
唐揚げを口に含んだ儘固まってしまった私に奥村さんが慌ててピッチャーの水をコップに注いで手渡してくれた。
それでも私は動けない。おかしい、なんで…。
「…あんま食わねえ方がいい、それ」
すげえ苦い。そう言い切った奥村さんに私は何を返したのか思い出せない。多分そうですね、とか当たり障りのない月並みな言葉だったと思う。記憶がない位に動揺していた。
唐揚げもお味噌汁も普通の味で苦くも何とも無かったから。