あらかた室内が泡に覆われた所でふう、と息を吐き出し暫く屈みっぱなしで作業をしていた為、じくじくと痛みを訴える腰を押さえる。二十歳なのにもう腰がキてるなんて、と自嘲めいた笑みを浮かべつつシャワーを手に取って泡を流していく。

「……」

そして、そんな私を傍観する脱衣場からの視線が一つ。言うまでもない、奥村くんのものだ。
いつものようにスウェットに身を包み脱衣場に座って覗き込むように私の作業を見つめていた。座りっぱなしで疲れないんだろうか。

「すみません、雑巾取りに行きたいんですが」

「……取る」

壁やドアの水気を拭う為に雑巾を取りに行こうと脱衣場で通せんぼをしている彼に声を掛けると、すぐそばにある洗面所の棚から乾いた雑巾を一枚引っ張り出してくる。それを私に黙って渡すと再び腰を下ろして、以下ループ。
先日、夜中にいきなり部屋に飛び込んで来てから奥村くんはこの状態の儘だ。お手洗いに行こうが風呂に行こうが必ず廊下で座り込んで待っている。外出する時は玄関までついて来るだけで外には出ず、オートロックの解除音で判断しているのか帰って来るとまた玄関でお出迎えされる。最初は驚いたが嫌ではないし、奥村くんが部屋に引きこもった儘よりずっと良いと結論をつけてそんな生活を受け入れている。

「私、買い物に行ってきますね」

風呂掃除を終えて少し休憩してから私にくっついてテレビを見ていた奥村くんにそう言えば彼の肩がびくりと跳ね上がった。風呂掃除をしていたら何だか入浴剤が欲しくなってきた。ボディソープもそろそろ無くなりそうだから新しいのを買わなくてはいけないし、どうせならいつものドラッグストアではなく駅ビルのバスアイテム専門店に行こうと考えていた。
レース付きの白のロングスカートにラベンダー色の上着を羽織り、化粧を施して部屋を出た所遠出をする事を察したらしくうろうろ、わたわたと効果音が聞こえてきそうな位奥村くんが挙動不審になる。

「お土産、何か買ってきますねー」

ついでに洋服も買って帰ろうかなあ。久々の遠出に心が弾むのを感じながら玄関でサンダルに足を入れていると、背後からバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。そういえば今日は玄関まで付いてこなかったな、進歩した?寂しがり屋キャンペーン終了?と考えながら後ろを振り返るとあら不思議、部屋着のスウェットではなくTシャツにジーンズ、手に水色の上着を引っ付かんだ奥村さんが眉を下げて立っていた。

「俺も、……行く」

進歩どころではなかった。
奥村さんが、外に、行くって言い出した。

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