どしゃり。

しとしとと肌寒い雨が降りしきる中、廃墟と化した街に何かが叩きつけられたような音が響き渡る。少年は手を差し出した儘ぼかんと口を開けた儘崩れ落ち先程粉々に砕けたコンクリートの塊の中に居る男性を見つめている。
先程まで共に戦いいつものように上から物を見ているような口調で己を叱咤激励していた男が、何故何メートルも下に居て倒れているのか。
自分の隊の仲間達が後ろで慌てたように救護班の要請をする声を聞きながら、燐はいつまでも其処から動けずにいた。



「テメェ!何つーふざけた真似しやがるんだ!!」

濡れ鼠になりながらも任務から帰還した燐を待ち受けていたのは温かい茶でも肌触りの良いタオルでもなく、師として今まで剣術の何たるかを教わってきた女性の拳だった。避けようと思えば避けれたかもしれない、けれどこの時ばかりは避けてはならないと感じ燐は甘んじてシュラの拳を頬で受けその衝撃の強さに数歩よろめく。

肩で息をしながら自分を睨むシュラの目は瞳孔が開いていて誰かの為にこんなにも猛るシュラを見るのは初めてで、脳裏に担架で運ばれていく男性に少々羨望を抱く。
あまりのシュラの剣幕にその場に居た全員が身動き出来ず静まりかえった第二部隊の部屋の中には気まずい雰囲気が漂っている。

「今まで馬鹿だ馬鹿だと思っては居たが、今日こそテメェが馬鹿だと思った日はねぇ…!」

燐の腰丈のコートの胸ぐらを掴みながらシュラは地を這うような声で怨み節を展開させていく。自分はあの任務には参加していなかったのに、怪我なんていないのに。仕方ないと割り切るには、現実と向き合う冷静さといつもは本音の裏に隠している愛がほんの少し邪魔をしていた。

「テメェにゃうんざりだ!今後一切アタシの前にその面下げて出てくんな、この出来損ない!!」

シュラの放った一言に燐は一瞬そのコバルトブルーの瞳を見開く。
騒ぎを聞き付けて燐の双子の弟、雪男ががらりとその扉を開けた瞬間、瞳は後悔と決別、諦観したような表情へと沈んでいき血が滲む程に唇を強く噛み締めるシュラに向かって小さく頭を縦に振った。

「わかった」

その日以来燐が日本支部へと姿を見せる事はなくなり、燐と共に任務へと向かったエンジェルが下半身不随の診断を受け第一部隊隊長から除名。代わりに雪男がその役目を負う事になった。
それは、とある肌寒い雨の日の事だった。

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