普段と変わりの無い日常。
風呂から上がって髪を乾かすのをサボりつつベッドに転がりながら先日購入した雑誌のページを捲る。あーこの服可愛いな、なんて考えながらちらりと時計に目を向ける。夜の十時を回っている、この時間になると引きこもりの家主は就寝し部屋は沈黙に包まれる。春先で冷えていた夜も初夏を迎え少しずつ寝苦しさを感じるようになってきた。衣替えは既に終わらせてはいるものの布団は未だに部屋の隅で畳まれているだけで、そろそろ干さないとなあ、なんて考えていると突如静かだった家主の部屋からどたんばたんと階下から苦情が来るのではという位派手な物音が響いてきた。

「……?」

ベッドから転がり落ちでもしたのか、雑誌を捲る手を止めちらりと部屋の扉に目を向けた瞬間。
ばたばたという足音の後、勢い良く私の部屋の扉が開かれた。

「ひぃいっ!?」

反射的に肩が揺れ身体が一瞬跳ね上がる。私のそんなリアクションに全く目もくれず物音の犯人である奥村くんは真っ先に私が寝転がっているベッド目掛けて直進してくる。ベッドサイドのルームランプの灯りでは彼の顔も見えず、意図も分からない。

「ぅぐっ!?」

うつ伏せから身体を捻って奥村くんを見上げていた私の上に、あろうことか彼は豪快にダイブしてきたのだ。
何だ何だとベッドと奥村くんの間で身体を捩らせると、動くなと言わんばかりに肩甲骨の辺りに頭を押し付けられる。ハッと気付いて身体の動きを止めた。
彼の身体が小刻みに震えていた。

「はぁっ、は、っ」

耳を済ませば呼吸がかなり乱れている。十歩も歩けば行き来出来る距離を全力疾走したって、いくら引きこもっていて体力が落ちていたとしても戦地の最前線で戦っていた男がこんなにも息を乱す筈がない。
何かがフラッシュバックしたのだろうか。悪夢でも見たのだろうか。全てが狂った、あの日の事を思い出したのだろうか。

「奥村くん」

「は…っ、は、はぁっ」

「奥村くん」

小刻みだった震えは徐々に酷くなり、呼吸の合間にがちがちと歯が鳴る音も聞こえる。うつ伏せの儘背中に腕を回して奥村くんの身体に触れると、びくりと身体を跳ねさせ私の腰辺りでパジャマがぎゅっと握られた。無言の拒否に言葉が詰まる、取り敢えず落ち着いてもらわないと。

「え、えーと…うーんと…取り敢えず仰向けになりたいなあ、なんて…」

「…、っは…はー…」

「離れろって意味じゃないんで……駄目ですかね…っ!?」

瞬間、視界がベッドのシーツから部屋の天井へと切り替わっていた。私の身体の上にいる人が身体を動かしたと気付いた時には胸元と腰に圧力が掛かっていた。あーこれはもう完全にあれだ、奥村くんに抱き付かれている。縋る、もしくはしがみついているでも可。
幼い子のように身体を震わせ怖がっている。

「奥村くん…」

震える身体に再度手を伸ばし今度はゆっくり上下に動かす。ぴくり、と頭が少し浮いたので反射的に手を離すと辞めるなと言わんばかりに頭が胸に押し付けられる。駄々っ子みたいだなあと考えつつ手を後頭部に回して少し伸びてきた髪を梳くように撫でていく。暫くそうしていると徐々に呼吸の乱れが無くなっていき、身体の震えも収まっていく。

「……」

そして気付いた頃にはすやすやと健やかな寝息を立てて私に全体重を掛けた儘眠りこけていたのだった。
この状況になって髪を乾かすタイミングを逃した事を後悔した。
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