大分私がいる生活にも慣れたのか、近頃奥村くんの行動範囲が増え気付いた時にはベランダで空を見上げていたり太陽の光をたっぷり取り込んだ洗濯物に包まれてソファで昼寝をするようになった。

「……」

「シーフードのスープパスタですよ」

コスプレの一件からやたらと絡むようになった奥村くんは買い物から帰って来た私の後をひよこのようについて回っては、家事の手伝いをしたり邪魔をしたりしながら家にいる間は私の隣に引っ付いている。奥村隊長の「懐いたら犬みたいになる」という言葉通りべったり引っ付いてくる奥村くんには家に来た頃の人見知りっぷりが懐かしく感じられるくらいだ。
ただし声を発するのは最低限のみで私の隣にいる時でもなかなか言葉を交わす事は無く、尚且つ隊の訓練の賜物なのか気配を消しているらしく気付いたら隣にぴったり寄り添っていて何度口から心臓が出る思いをしたのか分からない。引っ付いていても私が外に出る時だけは素直に離れるし、時折ベランダから空を眺める表情は険しく近付けるような雰囲気ではない時もある。

「(もう少しなんだけどなぁ…)」

あさりの旨味がたっぷり溶け込んだスープに茹でたパスタを絡めながら蝸牛のようにゆっくりのったりと進展していく状況に少なからず焦っているのかもしれない。
というのも先日奥村隊長から連絡があった際に伝えられた「霧隠隊長の依願退職」が頭から離れないせいである。
隊から離れる直前、霧隠隊長に因縁をつけられていた奥村くんに言ったら、彼はどのような反応を示すのだろうか。怒りも喜びもせずこの部屋であった時のように無表情の儘全てを受け入れてしまいそうで、それが何だか彼の最後の希望すらを絶ってしまうような気がして。毎日変わらず日向ぼっこをする彼に霧隠隊長の事を伝える事は出来ない儘、私の胸の奥で靄を作り続けてある。

「出来た。…奥村くん、お皿取ってくれますか?」

「……ん」

一瞬だけ私の傍を離れて、すぐ戻って来た彼の手には当たり前のように深皿が二枚があった。
礼を言ってパスタを盛り付けている間にふらりと離れてはフォークと茶を注いだグラスをいそいそと用意している彼の背中に自然と笑みが零れていた。

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