滅多に人が訪れる事の無く唯一この部屋を出入りする奥村隊長ですら全く使わないこの部屋のインターフォンが役目を果たしたのは午前中の事だった。そして今、私は鳴らされたインターフォンの先に待っていた出来事について頭を抱えている。居間のテーブルに置かれた小さな段ボール箱と睨みあってから、箱の中身を引っ張り出した。

「エロかわ愛されセーラー服…」

段ボール箱に貼られた宅配便の伝票の宛先欄は奥村くんではなく私だったので躊躇いなくカッターを使って箱を開けてみれば、中から出てきたのはピンクの梱包材に包装されたコスプレグッズだった。梱包材にプリントされているグッズの名前らしきものを読み上げながら伝票の差出人欄に目を通し本日幾度目かの溜め息を吐き出した。

「奥村くん、ちょっといいかな」

散々悩みに悩み抜いた末、同居人に正直に話をしてみる事にした。一応返事を待つべきだと部屋のドアをノックしてからその儘待機していると、程なくしてドアが開いて奥村くんが顔を出して来た。これなんだけど、と共に持って来た段ボール箱を差し出すと既に開けられ中身のセーラー服が真っ先に視界に入って来たらしい奥村くんは何だこれと言いたげな視線を私に向けてくるので一応弁解をさせてもらう。

「私宛てに今朝届いたんだけど私通販しないから変だなあと思って。それにあの、その、差出人がね…」

怪訝そうな表情を浮かべている奥村くんに外向きに開かれた段ボール箱の蓋を閉じ伝票の差出人の欄を見せる。伝票に書かれた差出人の名前を見た瞬間、奥村くんはぴしりと固まってしまい声を掛けても全く反応しなくなってしまった。
それもその筈、差出人の欄には私の目の前にいる奥村くん本人の名前が書かれていたからだ。奥村くんから私への荷物、しかも中身はいやらしいコスプレの衣装。差出人が同僚や友達ならまだ悪戯だと言って笑い話で済ませられるが…さて、どうしたものか。
互いに口をつぐんだせいで二人の間に流れていた重い沈黙を破ったのは意外にも私ではなく、奥村くんだった。

「ち、違う」

「えっ」

「や…俺、ネットとかよく分かんね、から…通販とかはやらねぇ、し…」

「あ、ああ…そうなんだ、じゃあ、誰かの悪戯なのかも」

奥村くんの予期せぬ反応に思わず呆けた表情になってしまう。段ボールを抱えた儘固まっていると私の悪戯という言葉に反応を示し、暫し伝票を見つめていた奥村くんが不意に私の腕から段ボールを拐っていった。
え、と思わず漏れた声に奥村くんの視線は伝票から私へと移る。

「この字、見覚えがあっからちょっと確認してくる」

「え、あ、ああ、どうぞ。じゃあ私、風呂掃除シテキマスネ…」

最後辺り片言気味になってしまいつつ奥村くんに段ボール箱を託してそそくさとその場を離れ、今まさに取り掛かろうとしていた風呂掃除を始める為に浴室へと小走りで移動する。
脱衣所に駆け込み扉を閉めて一人になった所で胸の奥が熱を帯びてじんわりと広がっていく。

「お、奥村くんが喋った…」

同居を初めて早数ヵ月。私への問いには常に首を上下左右に振る事のみで意志表示をしていた奥村くんが、やっと喋ってくれた。
引きこもりを家から出すなんて無理、と思っていたがこれは大きな一歩ではないだろうか。ずっとこの生活が続くのかと悩んでいたので、喜びのあまり無意識の内に手を強く握り締める。背中を押すのではなく私が手を引いてあげれば、いずれ隊にも復帰出来るんじゃなかろうか。
漸く見い出せた希望を逃がさまいと強く意気込んだ所で、背後の脱衣所の扉をノックされ思わず悲鳴をあげてしまい奥村くんをも驚かせてしまった。

因みにあのコスプレ衣装を送り付けて着たのは支部長だったらしい。あのジジイ、とぼやく奥村くんを視界の片隅に収めつつ私は携帯を開いて奥村隊長の名前を探すのであった。

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