開いた唇の隙間からは二酸化炭素と共に絶えず悔やむような声音が漏れていく。自室の扉に寄り掛かって頭を抱える私は先程の出来事を深く後悔していた。

「アッ、アレルギーとかありませんか!あと食べられない物とか!」

初めて交わした会話の始めがこれはアリかナシか問われたら万人は必ずナシを選ぶ。最初の会話がアレルギーとか段階というものを走り幅飛びの様に乗り越えてしまった気がする。事実、逃げないように掴んだ洗濯籠を挟んだ向かいに居る奥村くんはぽかんと呆けた表情を浮かべていた。

「あ、え、えーと…」

「……」

「卵とか、小麦とか!」

「……」

慌てて問いの補足をするも奥村くんは黙った儘静かに眉を寄せて洗濯籠へと目を落とす。沈黙が気まずい空気を生みやっぱり何でもないですと言いたくなるのを我慢してもう少しお伺いをたててみる事にした。

「食べられない物とか…ありませんか?」

「……」

「あ、ああ…そうですか。ありがとうございます」

「……」

返事はなく首の上下左右の動きだけで意志を確認するのはまるで拗ねた子供にするようだったのだが、話を聞けばどうやら食物のアレルギーは無いらしい。何故だか礼を言いつつ気まずさを背負い洗濯籠から手を離し荷物を持った儘自室へと引っ込む。パタパタとフローリングを蹴る足音と背後から突き刺さる視線が何だか虚しかった。

「はぁあ…」

第二部隊に居た頃のはつらつとした雰囲気が微塵も感じられず会話もぎこちないものになってしまった。前はもっとフレンドリーによぉ名字、おはよう奥村くんなんて快活な挨拶を交わせる程には仲が良かったのに。
あの日、奥村くんには一体何があったのだろう。私の問いに答える声はあるわけもなく、ぺたりぺたりと床を這って自室に戻る奥村くんの足音だけが私の頭の中に響き渡っていた。ベッドは、まだ来ない。

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