ふう、と息を吐き出して冷蔵庫に寄り掛かって座り込む。冷蔵庫の横に置いたバスケットから数種類の菓子が消え、昨日こさえた炒飯のおにぎりも皿ごと姿を消していた。良かった、どうやら作ったものは食べてくれるようだ。
米は殆ど手が付けられていなかったし野菜も痛み始めていたからもしかして料理が苦手なのだろうか。奥村くんについての情報を思い出そうとしても部署内で居眠りをしているか霧隠隊長と喧嘩ばかりをしている姿しか浮かばず私は考えるのを辞めて立ち上がった。

ドラム式の洗濯機の中で私の洗濯物がぐるぐる回されるのを見つめていると、ふと辺りに奥村くんの洗濯物が無い事に気付く。自分で回して自分の部屋に干してくれれば有難いのだが、昼間からベッドでごろ寝している彼に果たしてそのやる気があるのかと問えば淡い期待は塵となって散って行った。
台所で煮立つカレーの様子を見てから洗濯籠を奥村くんの部屋の前に置いて洗濯物があれば入れておくようメモを貼っておいた。
カレーももう少し煮込めば完成、ご飯も二合炊いた、あとは掃除をして洗濯物を干してから買い出しに行けば今日やる事は全て終わりだ。

「奥村くん、今から掃除機かけるから。うるさかったらごめんね、ちょっとだけ我慢して」

扉越しに起きているかどうかも分からない彼に一言声を掛ける。人室禁止と掛かれた札は入が人の儘で、これ漢字間違ってるよと衝動的にツッコミたくなるのを抑えながら私は掃除機のコンセントを差して居間の中央にあるカーペットの掃除を始める。掃除機を掛ける場所はこのカーペットと玄関のフロアマット、そして脱衣所に敷かれたカーペット位なので騒音もそう長くは続かない。
掃除機を片付けシート式のモップを使ってフローリングの掃除を済ませ、カレーの鍋を火から下ろしバルコニーで洗濯物を干して慌ただしく買い出しへ行く為に財布と鍵を持って部屋を飛び出した。

「奥村くんの好きなもの…食べられないもの…ううん」

菓子の補充の為に幾つか菓子を籠に放り込んだ後野菜コーナーと鮮魚・肉のコーナーをうろうろしながら私は眉を下げて考え込んでいた。よく考えれば私、奥村隊長に食事面について詳しく聞くのを忘れていた。
卵が入ってる炒飯は昨日食べていたから卵は大丈夫として、甲殻類や小麦などアレルギーがありそうなものは避けて無難に鮭、豚コマ、鶏の挽き肉に卵、うどんや蕎麦を購入して家路に着いた。生活用品は明日でいい、今月の生理はまだきていないから明日でも大丈夫だろう。
同居って結構大変だな、そう考えながら鍵穴に差した鍵を捻り扉を開くと廊下から人の気配を感じた。パンプスを脱ごうと足元に向けていた視線を上げると浴室の扉の前で洗濯物の籠を持った奥村くんが呆けた表情を浮かべて立ち尽くしていた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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