大学の近くにあるファミレスでのバイトを終えて家に帰って来た私は、夕方に洗濯されるようにタイマーを掛けておいたバスタオルをベランダへと干す作業に勤しんでいた。
明日も一限から授業が入っているが、起きる頃には乾いているだろう。鼻歌混じりに物干し竿にタオルを掛けているとカラカラと隣室のベランダの扉が開く音がした。
うげ。今朝逃げちゃって気まずいのに…意外と空気読めないな、イケメンは空気読めないのか?いやイケメンだから読む必要もないのか?
洗濯物が飛ばされないように大きい洗濯鋏でタオルを挟んでいるとあの、と控え目な声が隣から聞こえてくる。

「……何ですかイケメンこの野郎」

「え?いや、あの…イケメンって誰ですか」

「………」

スーツ姿ではなく薄手のニットにスラックスの私服姿でベランダに出て来たイケメンもとい奥村さんは、どうやら引っ越し早々お困りの様子らしい。
さらりとイケメン否定しつつ眉を下げた奥村さんはその悩みを打ち明けだした。
どうやらマンションのおばさん達がこぞって夕飯のお裾分けを持って来たらしく一人で食べきる事が出来ず困っているらしい。このイケメンめ!と叫びたくなるのを耐えながらタッパーやジップロックの類は無いのかと聞けば首を横に振られた。
ご近所同士の触れ合いが減ってきている昨今、お裾分けなんてないと思っていたらしく保存容器の類は全く用意していないとの事。馬鹿野郎、一人暮らしにジップロック様とタッパー様は神様の様な存在なんだぞ!
イケメンに向かって啖呵を切った私は一旦部屋の中に入り先週買ったばかりのジップロックの箱を掴み、ベランダでぽかんとした表情を浮かべている奥村さんへと投げ付けてやった。

「これでも使えこのイケメン眼鏡!」

捨て台詞を吐いてベランダの扉を閉めベッドに潜り込めば、隣室からベランダを出たり入ったりする音が聞こえて来た。
ちくしょう、私も煮物とか肉じゃがお裾分けされたい!顔面格差社会という生きにくいこの世に生を受けた事を少しだけ恨みながら私は目を閉じた。
あっメイク落とすの忘れた。イケメンのせいだ、イケメンこの野郎爆発してしまえ!

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