小サイズの燃えるゴミの袋を揺らしながらゆったりとした足取りで階段を下りていく。まだ少し肌寒いけど、少し前までは極寒の冬だったのでそれは仕方ない。
朝っぱらからマンションの前で井戸端会議をしているおばさん達に挨拶しながら横を通り抜け、車一台停まれそうなガレージタイプのゴミ捨て場に袋を置きカラス避けのネットを張り直す。

駐輪場で愛車の自転車の鍵を外していると、きゃあっとおばさん達の黄色い悲鳴が聞こえてくる。煩いなあ、と一人ごちて鞄を籠の中に入れて自転車を押して駐輪場を出ると先程の私のようにゴミ捨て場に大きなゴミ袋を捨てる隣人が居た。
黒縁の眼鏡の奥の瞳が私を捉えるのに気付くなり私はそそくさと自転車に跨がりペダルを踏みしめる。
いつもより気持ち早めに自転車を漕いでいると後ろからバタバタと此方へと近付いて来ている音が聞こえ、車かと後ろを振り返り…そして私は黙って立ち漕ぎを始める。

「……!」

「な…ちょっ、待って下さい!」

後ろから昨日会ったばかりの隣人がスプリンターの如く背筋から手先までをびしりと伸ばし、無言で追い掛けてきていたらそりゃ逃げたくもなる。
赤信号で止まる事、それすなわちあのスプリンターに捕まる事、イコールdie、死を意味する。私のシックスセンスが脳に逃げろと伝達するものだから信号を避けてあちこち逃げ回っている内に、いつの間にか背後のスプリンターは姿を消していた。
何だあの隣人、イケメンのくせに怖すぎる…。少し遠回りになりつつも何とか大学に着いた私は駐輪場に愛車を停めて一限目の教室へと向かった。

「朝から何か疲れた…」

適当な席に座りながら鞄の中からお茶の入ったペットボトルを取り出し一口含んで溜め息を吐き出す。そういや大分入り組んだ場所通って来たし…あの人、迷ってなきゃいいけど。
羽織っていたカーディガンの袖からぴょこんと跳ねたほつれを弄びながら、同じ授業をとっている友人が私の頭を叩くまで隣人のスプリンターについての思案は続いた。

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