ガラガラとキャリーバッグを引いて集合場所の大学近くの駅前に向かう。いつも教授は此処まで車で迎えに来てくれて家族が出払った家で数日間泊まり込みでゼミを行っている。
集合場所に着くと既に友達全員が揃っていてこれから会えるイケメンについてかなり盛り上がっていた。残念だったな、今日来る助手さんはフツメンらしいぞ!なんて、やる気を削ぐような真似は出来ず彼女達の輪に加わる。私達以外にゼミに参加する者は居ないようで、あっという間に集合時間を迎え教授の迎えを待っていると。

「すんませーん」

タクシー乗り場の方から手を高く掲げひらひらと振りながら若い男が近付いて来る。何だあれナンパか?イケメンなら爆発しろ、そう思って顔をよく見てみると。

「――っ!!?」

「ども。藤本獅郎の息子の燐です。あーっと、これジジイの教員免許」

知り合いでした。しかも教授の息子…だと…?
ぺろりと出された教員免許には確かに教授の名前と顔写真があって、いきなり現れた燐さんに皆は警戒しつつ各々頭を下げる。私は口をぱくぱくと開いて呆然と燐さんを見つめていた。

「ジジイからの伝言。『悪ィんだがゼミより大切な用が出来たんでゼミ中止にするわ。詫びにネズミーランドのチケットとったから皆で行ってこいよ』だと」

ええ、と小さな困惑の後におおっと大きな歓声があがる。窮屈な勉強会が突如中止になり、代わりにネズミーランドへ行けるのだ、そりゃテンションも上がる。チケットを貰ってきゃいきゃい騒ぐ皆を他所に燐さんは私の肩をぽんと叩きながら爆弾発言をかましてくれた。

「お前は雪男と付き合ってる事ジジイに報告に行くんだろ?家に丁度俺の彼女居るし紹介するぜ!」

 空 気 が 凍 っ た 。

「……は?雪男って、奥村雪男さん?」

雪男さんと同じ塾でバイトしている友達が口を開くてざっと視線が私の背中に突き刺さる。

「それ、誰?」

「……さっきまで言ってたイケメン助手」

「「「はぁぁあああっ!?」」」

やべえばれた。顔面蒼白になりながら振り返ると般若のような表情を浮かべた友達が私の肩をがしりと掴む。燐さんがひっと息を呑み後退る音が聞こえる。

「名前!どういう事!?」

「アンタイケメンアレルギーだったんじゃないの!?」

「っていうか、奥村さんと何処で知り合ったわけ!?」

「…と、隣の部屋に住んでます…」

「アンタ隣人が変人とか言って嫌がってたじゃない!!」

「騙してたの!?」

「ちゃんと説明して!!」

「えっ、えと…」

ひいいいい怖いいいいい!!
友達に囲まれて四方八方から質問攻めにされて半泣きになりかけていた所、誰かに横から腕を引かれ友達の輪の中から引っ張り出された。燐さんと思ったらきっちりと仕事用のスーツを着込んだ雪男さんが昨日と同じくにこにこと笑いながら私を見下ろしていた。

「お、奥村さん……」

目を吊り上げて私に迫っていた友達が気まずそうに眉を下げて私と雪男さんを交互に見つめる。早朝とはいえ人はちらちらと此方を見ているし近くのタクシー乗り場のおじさん達も修羅場かと窓の隙間から此方の様子を伺っている。ああこれ私が何か言わなきゃ収まらないパターンだ。咄嗟に雪男さんのスーツを握り締めながら友達に向き合った。

「え、えっと。雪男さんは確かに私の嫌いなイケメンだし、最初は追い掛けてきたり付きまとわれたりして怖かったんだけど……私を好きだって気持ちを全力でぶつけてきてくれて、それで、苦手な人だけど信じてみようって思ったの……黙っててごめん!」

ほぼ言い逃げに近い形で投げやりに叫ぶと握っていたスーツから手を離す代わりに雪男さんの腕を引いて走り出した。
友達も、燐さんも、教授との顔合わせも知らない。今は誰にも見られない所に行きたかった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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