築十五年、鉄筋コンクリートで出来た五階建てのマンションは案外住み心地が良い。
ベランダ有り、風呂トイレ別、駅近、コンビニ近の1LDKで片手全部と夏目が数人の家賃だ。
たまに来る新聞の勧誘は鬱陶しいが、普段は家に長居する事はあまり無いし無視すればいいだけの話なのだから特に不自由している事はない。バイトも休み、大学も休み万々歳!いつものようにソファに寝転がって土曜の昼をごろごろして過ごしていると不意にインターホンが鳴り響いた。
また懲りずに新聞勧誘だろうか、はたまた新たな新聞会社からの勧誘だろうか?無視するか出ようか考えあぐねていると確認するかのようなやたらと長いインターホンの音が響く。
これは完全に喧嘩売ってやがる、売られた喧嘩は買わねばならん!テレビでやっていたボクシングのパンチを見よう見まねで見えないサンドバックに打ち込みながら玄関へと向かう。玄関の扉のロックを外して少しだけ扉を開ければ、扉の向こうには眼鏡を掛けたスーツ姿のイケメンが立っていた。新聞会社からの刺客…か…!?

「すみません、いきなりお訪ねして。今日から隣の三〇七に越して来た奥村と言います。一人暮らしは初めてでしてご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします。これ、つまらないものですが…良ければ食べて下さい」

「え、あ、はぁ…。三〇八の名字です…よろしくお願いします」

にこりと穏やかな笑みを浮かべたスーツ姿のイケメンは紙袋から有名な和菓子店のお饅頭が入った箱を取り出し私へと差し出して来る。どうやら新聞会社の刺客ではないらしい、呆気にとられながらも一応菓子は受け取っておく。わあい、後で玄米茶淹れておやつにしよう!

「ご年配の方ばかりだったので貴女のような歳の近い方がいると有難いですね」

ちんちくりんな私でも分かる社交辞令を口にしながらそれでは、と頭を下げたイケメンは菓子を一通り配り終えたのか先程宣言した通り、私の部屋の隣へと入って行った。
ぽかんと呆けた儘菓子折りを持ったドアを開け放していると下の階から新聞とりませんか、と声が聞こえたので慌てて部屋の中へと引き返した。
あんなに人の良いイケメンを見たのは初めてで思わず意識が大気圏を突破していた。きっと明日はマンションに住まうおばちゃん達の噂の的になるに違いない。
ピンポンピンポンと鳴り響くインターホンの音と共にお決まりの新聞勧誘の声を掛けられるのを聞き流していると、ふと先程のイケメンは新聞勧誘をスルー出来るのかとちょっと心配になる。まぁ田舎者って見た目じゃなかったし大丈夫か。マグカップに玄米茶のティーバックを入れ電気ポットの湯を注ぎ入れながら次に会った時それとなく聞いてみようと思った。

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