「いいですか、そもそも顔が良いからといって何もかもが自分の思い通りになるわけないんです。とある知人は女性が好きで四六時中女性の事ばかり考えていますがきっと貴女の周りの人もそんな方ばかりだったのだと思います。ただ分かって欲しいのは顔が良いからって順風満帆な人生が送れるわけではないってことです!ええ、順風満帆なら今頃僕は今まで付き合った女性は人並みにいて経験だってそれなりにしていた筈です。何が悲しくて二十四で童貞どころかファーストキスすらまだなんて人生を送ってるのやら。小さい頃から好きだった人は兄に取られました。ね?思い通りになんかならないんです、貴女の中では僕よりずっとランクが低い兄はあんなにも簡単に彼女の心を拐っていったんです。そして、また、兄は僕が欲しいものを奪おうとしている。僕には振り向いてくれないのに兄には振り向いて、笑って、仲良くなって…見てられないんです。辛いんです、此処まで来るのに沢山時間を掛けてきたのに。僕のことも名前で呼んで下さい。貴女のことも名前で呼ばせて下さい。この顔が嫌だというなら、いっそ、整形でも何でもしますから僕を避けて逃げるのは辞めて下さい。僕はイケメンなんかじゃありません。貴女に想いを寄せる…ただの平凡な男ですよ」

……。

………。

反撃どころか追撃を食らってしまった気がするのですが、気のせいだろうか。
と、取り敢えずその辺りは一旦置いといて。やっぱり名前は呼んで欲しいみたいだ。
少しだけ顔を上げて奥村さんの顔を伺えば、切なげに顔を歪めて薄い唇を噛み締める彼と目が合った。
く、くそ、やっぱりイケメンだちくしょうめ…!もう帰ってくれと言えない雰囲気じゃないか!

「ゆ…、う」

ぎゅ、と目を閉じて徐々に頬に熱が集まってくるのをなるべく意識から逸らす。燐さんみたいに名前を呼べばいいだけなのに、何だこの羞恥心は。こんなにも恥ずかしくなるのか?奥村さんがイケメンだからという理由だけで?本当に?

「ゆ…うー…ゆき、お…さん」

「!!」

強い力が二の腕を捕らえる。痛くはなかったがびっくりして目を開けたら私と同じようで、ちょっと変な表情を浮かべている奥む…雪男さんが居た。直ぐに「あ、やばい」みたいな焦った表情になり二の腕が負荷から解放された。雪男さんに腕を掴まれていたらしい。

「す、すみません…吃驚して、つい」

私の機嫌を伺うように先程までの淡々と言葉を紡いでいた強気な態度は何処へやら、あわあわと視線と手をさ迷わせている。

「えーと、イケメンは嫌いですが普通の男性は嫌いじゃないので…大丈夫ですよ」

「えっ」

「ただの平凡な男、なんですよね?さっき自分で言ったばかりじゃないですか。……だ、だからですね、」

触る位どうって事ないです、と紡ごうとした言葉は私の唇の手前に差し出された雪男さんの人差し指によって阻まれてしまった。無表情から驚いた顔、焦った顔に次いで今は目を細めて微笑んでいる。百面相か。

「少しの間だけでいいので、手を握ってもいいですか?」

「……冷房が効いてる雪男さんの部屋でならいいですよ」

首を伝う汗を嫌そうに腕で拭うと今度ははは、と声を出して笑っていた。だから、百面相か。
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テーマ「人外ファンタジー」
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