事の発端なんて些末な事からだった。中学校の時、席替えをしたら隣の席がイケメンだった事から始まった。筆記用具の貸し借りをしたり宿題の見せあいっこをしたり、昨日見たテレビの話で盛り上がったり。確かにかっこいいな、なんて思っていたけど彼だからそうやって接していたわけではなくただただ隣の席だったから仲良くしていた。
いやな事件だったね…、とフリーのカメラマンの言葉がやけにしっくりくる出来事だった。彼の事が好きで陰で周りにあたしはあいつが好きだからアタックするなと触れ回っていた女子が私のある事ない事を吹聴した上に、私が彼女を襲ったと身に覚えのない事を言い出して教室の真ん中で泣きだしたのだ。

『ふぇぇ、昨日の放課後名字さんに殴られたのー!』

『……えーと』

クラス中の視線が痛い。
当然ながら身に覚えはない。

『見て!このほっぺ!痛いんだよう!!』

『……いや、私、昨日の放課後は…』

『名字さん酷いよぉおお!』

『HR終わってすぐ帰ったんだけど』

『……』

『……』

『しょ、証拠は』

『学校出て直ぐコンビニ寄ったから…レシートあるよ』

『……』

『……』

勿論その後彼女とは気まずい間柄になってしまった。しかしそれ以上に私の堪忍袋の緒をきりきりと細めたのは。

『アイツ胸でけーから適当に構ってやってたけど重いな…マジ無理だわ』

『まーいっか。女くらいすぐ出来るし』

彼女の好意を分かっていた上で気持ちを踏みにじった隣の席の彼の一言だった。周りにそう漏らしている彼を咎める者は一人も居らず彼の「俺はイケメンだから何やっても許される」な態度は卒業まで続いた。高校も大学も違うから今はどうしているかは知らないけれど多分変わっていないと思う。
それ以来イケメンという生き物はどいつもこいつも顔が良い自分に酔いしれていて二股だろうが不倫だろうが教師との禁断の恋だろうが、悪い事をしている自覚はあれど許されると思い込んでいる忌々しいものという概念が根付いてしまい、イケメンに対する耐性がほぼ無くなり苦手を通り越して嫌悪を抱くようになった。股が緩い男は一人残らず性病うつされて使い物にならなくなればいいのに。

「だから選んでください。爆発するのと性病移されて一生使い物にならなくなるか」

「一体何の話をしているんですか」

目の前に立つイケメン、奥村雪男も例外なく私の忌み嫌う男の部類に入る。
玄関を開けて開口一番に究極の選択を迫った私に対して奥村さんは眉を寄せて怪訝な顔で私を見下ろしていた。

「大体何で私なんですか!?名前を呼んでくれる子なんてその辺に沢山いるじゃないですか!」

「……」

「イケメンに関わって良かった事なんて一つもないんですよ!たまーに夕飯をお裾分けしたり課題を手伝って貰う、ただの隣人の儘でいいじゃないですか!」

「……」

「どうしてあなたの事で私がこんなに悩まなきゃいけないんですか…!」

心の底からの感情の吐露の瞬間、奥村さんの眼鏡の奥がきらりと光ったのを私は間違いなく見た。そして、奥村さんからの怒涛の反撃ラッシュが幕を開ける。
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