「それは彼がアンタに名前を呼んで欲しいっていうアピールよ」

季節限定のパイナップルミルク味のかき氷をかき混ぜながら友人は恋の駆け引きについて私に力説してくれた。曰く、双子の兄と仲良くしている私に嫉妬したのではなく出会って数時間しか経っていない相手を呼び捨てにしているのが気に喰わないらしい。
何やかんやと力説してくれたが私は友人の手の中のパイナップルミルクをつまみ食いするのに夢中だった為一割も耳には届いておらず、結果私が買ったチョコバナナクレープが半分位無くなった。南無。

「でも、今更名前で呼ぶのもなあ。名前呼んで何こいつ調子乗ってんのって思われそうで」

「何言ってんのよ。あっちが名前で呼んで欲しいってアピールしてるんだから呼んであげないと!」

「アピール…してるかなあ」

燐さんと会った日から早一週間が過ぎるがお隣さん通いの日々は変わらない。夕飯も一緒に食べるし、レポートで悩んだ時はアドバイスを貰うし、時間があれば塾で使うプリント作りも学ぶ立場から見て意見を述べてみたり。燐さんと酔い潰れた翌日にこってり怒られたのと、たまに奥村さんと呼んでも聞いていないふりをされる位だ。

「どうせ今日も会うんでしょ?」

「や、私今日バイトだし…会うか分からない」

手首に収まるブレスレットのような腕時計に目をやればそろそろバイト先に向かわなければならない時間になっていた。クレープを包んでいた紙を捨てて全く参考にならなかったものの一般人からの目線でアドバイスをくれた友人に礼を言ってその場を後にした。

◆ ◇ ◆

夕方に少しだけ混んだものの九時を過ぎれば客もまばらになる。からんからんと来客を示すベルが鳴ったので案内しようと入口に向かえば噂をすれば何とやら、仕事帰りらしい鞄を提げた奥村さんが一人で立ち尽くしていた。

「こんばんは、お疲れ様です。お一人ですか?」

「…ええ、まぁ」

「ご案内しますね」

静かに一言、二言だけ言葉を返してくる奥村さんに疲れているのだろうかと心配になりつつも二人用の席へと案内してお冷やを取りに向かう。
盆にお冷やを乗せて奥村さんの所に戻れば彼は机にノートパソコンを広げて何か作業を始める所だった。邪魔にならない場所にお冷やを置けば既にメニューに目を通していたらしくいくつか摘まめる物をオーダーされて、それを手持ちに機械に打ち込み厨房へと下がる。厨房ではバイトのウェイトレス達がきゃっきゃっとはしゃいでは、席に座る奥村さんをイケメンだなんだとはやしたてている以前見たような光景が広がっていた。
そういえば奥村さんを初めて見た時はイケメンだと思ったし同時に関わりたくないと思っていたが、彼の部屋で眠ったり酒を飲んで酔い潰れてしまったりと何だかんだで彼とは関わってしまっている自分が居る。

「あの人、彼女居るのかなー?」

「連絡先位なら教えてくれるかも!」

すみません、私隣に住んでます。なんて言う事は出来ず私は上がっていいよと声を掛けてくれたチーフに頭を下げて厨房を抜けて事務所へと向かうのだった。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -