バイト先のファミレスで回るように働き回り漸く客の出入りが落ち着き裏で水分を摂ってからホールに戻るとウエイトレス達がこぞって色めき立っていた。何事かと思って近くに居た子に聞いてみれば何やらイケメンが来ているらしいとの事。なんだ、イケメンかイケメンには興味無いや、そう思って適当な相槌を打って店内を回っているとぴんぽん、と店員を呼ぶコール音が鳴る。電子掲示板に表示されているのは丁度私が見回っているフロアの近くだったので私が行くとウエイトレス達に目配せすれば、彼女達の恨めしそうな視線が突き刺さる。えええ、私何かしたっけ。ここ最近のバイトでの態度を思い浮かべながらコールを鳴らしたテーブルへと向かった。後ろから近付いたので顔は見えなかったが半袖のYシャツを着込んでいるサラリーマン風の男性が一人、四人掛けの席に座っていた。まさかさっき騒いでたイケメンってこの人か。

「お待たせ致しました。オーダーお伺いし、ま……」

営業スマイルに営業ボイスでお決まりの台詞を客に吐いた所で語尾が段々と尻すぼみになっていく。上品なブリリアントグリーンのクロスで眼鏡のレンズを拭いていた彼は眼鏡を掛けて此方を見上げてにこりと微笑んだ。こんばんは名字さん、なんて澄ました顔をして。

「あばばば」

「コーンサラダとカルボナーラお願いします」

「サラダのドレッシングはしそとごまとマヨネーズからお選びいただけますが、どちらに致しましょうかあばばぱ」

「じゃあしそで。…そんなに驚きました?顔がひきつってますよ」

「コーンサラダ、ドレッシングはしそがお一つ、カルボナーラがお一つですね。かしこまりました、少々お待ち下さいませ」

手元の機械でオーダーを打ち込みさっさと後ろに引っ込もうとするもその前に声を掛けられて阻まれてしまった。仕方無く再びイケメン眼鏡に向き合えばバイトは何時に終わるのかと聞かれた。答える義理は無いのでお答え出来ませんと笑顔で言い切って早々に逃走した。怖い顔で出迎えたウエイトレス達にあの人のオーダー出たら運んであげて、と頼んで会計を済ませた客のテーブルを片付けに足を動かした。

夜の十時にバイトを終えて裏口から出て来た私を待ち受けていたのは裏口の横で腕を組んで寄り掛かっているイケメン眼鏡だった。畜生誰だバラしたやつ、先程まで居た裏口の扉を睨み付けていると奥村さんは何も言わずに帰りましょうかと微笑んだので取り敢えず文句の代わりに脇腹をつねっておいた。

これは後にこっそり私のシフト表を手に入れた挙げ句店長にあれこれシフトの入れ方の指示をしていたらしい奥村さんが、私のバイト先のファミレスに初めて来た日の話。因みに私がファミレスでバイトしている事は同じ塾でバイトをしている私の友達から聞いたらしい。私のバイト時間も料理を運んで来た女の子にそれとなく聞いたらしい。
イケメンって本当どうしてそんなに得な人生を歩めるんだろう。

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