バイトが終わってくたくたになりながら家に帰り身体に鞭打って洗濯物を取り込むという一人精神的SMプレイを繰り広げている最中、ふと視界に入った隣の部屋のベランダは真っ暗な儘だった。
ぴとりとお隣さんと私を隔てる壁に耳を当てても生活音が全く聞こえてこない。もしかして私が家に居る間は外出するという徹底的なエンカウント回避をしているんじゃあ…と考えた所でストーカー紛いな事をしている自分に自己嫌悪してとりあえず枕を殴った。

神様はそんな私の愚行に怒りを感じたのか。
翌日、講義を終え図書室で作成したレポートを抱えて帰宅しようとした矢先に土砂降りの雨が襲ってきた。レポートは死守しようと鞄を抱いて線のように降り注ぐ雨の中を駆けてアパートまで戻った。下着までぐしょぐしょになり服や髪の端から水滴を零しながら部屋の前までやってくる。自然と視界に入ってくるお隣さんの扉。
私の部屋のものと同じ扉なのにそれはまるで私を拒絶するように冷たい色と雰囲気を放っていて、ここ数日の多忙による疲労とお隣さんに迷惑を掛けてしまった申し訳なさから目頭が熱を帯びていく。
雨の水滴に混ざって頬を濡らす涙だけがやけに熱くてなんだか気持ち悪い。そうやって暫くお隣さんと自分の扉の間でめそめそ泣いていたら廊下の端からかつん、と靴がコンクリートを鳴らす音が聞こえた。

「……名字さん?」

ビニール傘と鞄の他に紙袋を持った隣人のイケメンが其処にいた。
やばい、何かのフラグが立った。私は一目散に自分の部屋の扉へとかじりついた。

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