・アブノーマルです
・鼻に舌突っ込まれるメフィストさんが嫌な方はブラウザバック推奨


愉快な時間ほどあっという間に過ぎ去っていく。終わった後に残るのは、虚無だけだ。
朝から降り続く雨はそんな私の胸中を表しているかのようだが、しとしとと降るそれも雨の中深く頭を垂れてシュラに請う奥村燐の涙すらも私の胸には響きないのですが。
我が邸へ着くなり雨を含んだ傘を畳み待ち構えていた世話係役の部下に外套と共に押し付け真っ直ぐに己の部屋へと向かって歩いていく。

アマイモン
愚弟に殴られたせいで鼻の奥が未だに鉄臭く私の不快指数が徐々に高まっているのも八割方その臭いのせいだと思い込む事にした。
上質の羽毛布団で三十分寝てからモーニングカップで紅茶をいただけばこの虚無感も直ぐに抜けていくだろう。そう考えて自室のドアノブを捻った私の瞳に映り込んで来たのはいつものような綺麗に整理整頓された自室ではなく、それは見るのもおぞましい程禍禍しい光景だった。
雨が降り曇天でもいくらか日の光が入り込むであろう窓は全て黒の暗幕によって光が遮られているせいで室内の様子は殆ど分からない。
この二百年使い続けたこの部屋も最早目を閉じていても何処に何があるか分かりきっている為、慣れた手付きで室内の電気を点せば目に飛び込んで来たのは色彩の暴力だった。

こだわりを持って揃えに揃えた猫足家具は全て猫足から蛇へと装飾を変えている。大画面の薄型プラズマテレビの前に置かれた据え置きのゲーム機に繋がれた特注品のコントローラーは見る者全てが目を奪われる程洗練された色使いのメフィストピンクからブラッディメアリーをぶち撒けたように真っ赤に染まっていた。
白で統一した家具から装飾品全てを黒く塗り替えられ中でも特に私のお気に入りである某アニメキャラクターのイラストが入った萌え浴衣は殺人人形チャッキーの絵柄に書き換えられていた。

今正に私が飛び込みたかったベッドには見慣れた人物が横たわっている。大蜘蛛がその足から垂らすランプから放たれる光を鬱陶しげに手で遮りながら紫色の瞳を見開いて真っ直ぐに私を見据えている。

「メフィスト」

ばちん。まるでブレーカーが落ちたような音を立てて蜘蛛のシャンデリアから光が消え私の視界も暗くなる。開いた儘の扉の背後から崩れた天気のせいでいつもより暗い日光が私の影を浮かび上がらせる。
こつり、私の影を黒いハイヒールが踏み付ける。音も無く闇の中を移動するのは彼女の特技なので昔から何度も見ている。何度も、何度も。

「アマイモンに殴られたのね。貴方の甘い血の匂いがするわ」

首にレースグローブを付けた腕が絡み付き鼻頭に口付けを落とされる。嬉しそうに愛しそうに声を弾ませた我が片割れである姉名前はアマイモンとは違いれっきとした血を分けた兄弟である。
棒立ちになった儘反応を示さない私に姉上は好都合とみたらしく突如私の鼻の中に冷たいものを押し込んでくる。それが何かお見通しだからだろうか、私の心は家に帰って来た時より大分落ち着きを取り戻し冷静になっていた。

「ク…ッ」

「どうしたの」

「クク、…フハ、ハハハハハッ」

冷静に考えてみれば鼻に舌を突っ込まれて胸中の波立ちが治まってしまう私もおかしいのだ。そう思えば笑いを抑える事が出来ず声を出して笑ってしまう。企みや他意など無い純粋な笑いなど暫く忘れていたようだった。
状況についていけず私から離れて舌を出した儘首を傾ける姉上の舌に付着している血を見て、ますます笑いを抑えきれなくなり腹を抱えて笑う私を見下ろしながら姉上は静かに目元を細めるだけだった。

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