「燐兄、今日は私が夕飯作ってもいい?」

名前が目を輝かせながら俺に言ってきたのはいつものように雪男と三人で俺が作った弁当を食べていた時だった。
俺達は三つ子の兄妹で俺は悪魔の血を引いてるが、雪男とコイツは人間。
最初に知ったのは雪男、先日色々あって俺が次に知った。そして最後に学園に向かうメフィストの車の中で名前は全てを知った。
俺や雪男から見ても少し変わってると思える我が妹は俺が悪魔だと知ると『燐兄はいつかおっきい羽根が生えるのかな!』と瞳を輝かせていた。

「危ないから駄目。料理なら得意な兄さんに任せればいいじゃない」

「シャベル雪男!私が作る!」

「……もしかして"黙れ"って言いたかった?」

「え?英語だとシャベルじゃないっけ」

優しそうな穏やかな目付きは雪男そっくりなのに、変な所で抜けてる所は俺に似たらしい。
結局名前は二人の食べたいものを作るからと雪男を上手く言いくるめて今夜の夕飯当番を勝ち取ったのだった。
「夕飯出来るまで燐もクロも食堂入っちゃ駄目だからね!」

名前は塾に通わないからアイツの夕飯は予め朝に作り置きしている。既に夕飯を済ませたらしくせっせと台所で作業に勤しむ所をクロを頭に乗せて覗いていると、俺どころかクロまで締め出して頑な食堂へ入る事を拒まれた。
滅多に台所に立たない名前が指を切るんじゃねぇか、とか火の扱いを誤って火傷するんじゃねぇかとか、そういうので頭が一杯で食堂の前をうろうろしているのを帰ってきた雪男に見られて苦笑された。

「まだ作ってるの?」

「もーちょっとー」

「お前怪我とかしてねぇよな?」

「だいじょーぶー」

そんな遣り取りが何回か続いた後、お待たせぇ、とにっこり笑いながら食堂の扉を開けて名前が顔を覗かせた。
三人とクロだけが使う広々とした食堂には俺がリクエストした炒飯と、雪男がリクエストしたミートソースのパスタがあった。

「つーか…何か赤くね?」

見た目は焦げも見当たらない至って普通なのだが、何故かやたらと赤い。俺の炒飯には細かく刻まれた赤い欠片が大量に混ざっていたし、雪男のミートソースはレトルトのを使わせたから本来赤茶色の筈だが何故か明らかに赤茶色というより赤だった。

「赤いの入れすぎた」

てへ、と笑いながら頬をぽりぽりと掻く妹に赤いのって何だよと突っ込みたくなるが確か買い出しの時に赤パプリカのような物を購入していた気がする。

「赤いのとやら、僕のにも入れたの?」

「だって、お肉と玉葱だけじゃ雪男可哀想」

眼鏡を直しながら問う雪男にけろりとした表情で言い切る名前。そういう問題じゃない、と小言を言う雪男と二人向かい合わせて席に座る。おなかすいた!と喚くクロを胸に抱き上げ名前はぱあっと花が咲かんばかりの笑顔で高らかに宣言する。

「たーんと召し上がれ!」

「兄さん…」

「き、きっとパプリカだ。買う時俺も見てたし、大丈夫だろ」

自己暗示を掛けるように呟くとスプーンで赤い炒飯を掬い意を決して口に頬張る。其れを見た雪男も恐る恐るフォークにパスタを巻き付け口に入れる。見た目の割に意外とイケる。
そう思った瞬間、舌の上で何かが一気に爆ぜた。

「ブフォッ!ゴホッ、ゲホッ!」

「ゔ…やっぱりこのパターンか…!」

思わず咽せてしまいスプーンを皿に戻すと、眉間に深い皺を刻みながら雪男が口元を押さえて唸る。舌の上で爆発した辛味は一気に喉や舌を襲い、辛いを通り越して最早痛みすら感じる。

「すまんね、ハバネロだったみたい」

「「狙ってただろ!!」」

てへぺろ!と舌を出してドジッ子を装う名前に俺と雪男は目を剥いて猛る。
コイツは末期と呼ばれる位の超辛党だ。ラーメンには胡椒だけじゃなく七味を山盛り入れるし、激辛のカレーにはタバスコを入れる。修道院時代からその片鱗を見せては俺達も被害に遭っていたが、其れは全員が食べるカレーやスープに限ってで普段は誰かに押し付けるわけでもなく一人でひっそり楽しんでいた筈だ。

「おま…何で…?」

コップに注いだ水を一気飲みして名前を見つめる。そんな俺をじ、と見つめる名前の目は…これでもかと言う位に輝いていた。

「だって!燐兄、悪魔なら、火、ぐぉーっと噴かないかな!って!」

「はぁ!?」

「え…なら僕は何故…」

「雪兄は何となく」

名前の中で悪魔=火を噴く、らしい。確かに俺はサタンの血を引いてるから青い炎を出せる。…が、噴けはしない…と思う。
何となくという適当な理由でとばっちりを受けた雪男の顔が段々説教する時の顔になっていく。

「名前、床に座って。高校生にもなってそういう幼稚な考えを持つのは良くないと思う」

「真面目な所は雪男が全部もぎ取って行ったくせに」

「分けられるものなら分けたいよ…」

「何で俺を見んだよ」

眼鏡を上げながら雪男がちらりと俺に視線を向けて来た。多分雪男が暗に示しているのは俺の塾での成績の事だろう。じっとりとした視線にうぐ、と声が詰まる。
結局名前はハバネロ入り炒飯とパスタを残さず食べるよう雪男から命じられ、俺は夕飯を作り直す事になった。炒飯を明日の弁当に入れると言って嬉しそうにパスタを食べる名前に俺と雪男は今後一切コイツには食事を作らせまい、と固く誓った。


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