泡を塗りたくられムラが出ないようにとその上からラップを巻かれて毛が染まるまで二人でアルプス一万尺やずいずいずっころばし、お寺の和尚さんと手遊び歌を口ずさみながらぱちぱちと手を叩いて遊ぶ。お寺の和尚さんの歌詞は近頃何かと物騒らしいよ、ええ?どんなんです?、東京タワーにぶつかったり救急車で病院はしごしたり…、えええ!何や皮肉度増してませんかそれ…なんて他愛も無い話一つでも零す事なく拾い上げてくれる辺り、やはり廉造は同い年や年下よりも年上と相性がいい気がする。
毛染め剤で頭皮がひりひらと痛むのを我慢しながらずいずいずっころばしで指を丸めて作った輪に夢中になって人差し指を抜き差ししている廉造に肩を竦める。大方輪と指を他のモノに見立てて遊んでいるのだろう、こういう所はいやらしい単語や女性に興味を持ち始めた小学生のような印象を抱く。廉造は本当に何処までも自由奔放で扱いが容易いと思えば急に難しいと感じる、そんな男だった。

「あ、そろそろ時間ですよー」

「ん…じゃあ洗ってくるね」

テーブルに置いてある百円均一の店で買った目覚まし時計の針を見て指の動きを止めたラップに包まれた私の頭をじいと見つめてちゃんと染まっているか見てくる。気恥ずかしくて慌てて立ち上がると洗いましょか?と腰を上げて来たので、ドライヤーの準備をするよう頼んで風呂場へと駆け込みラップを剥がしていく。ちくちくと刺すような痛みから少し解放されたがむわりと毛染め剤特有の鼻につく匂いが漂ってきたので直ぐにシャワーの蛇口を捻った。


「ひろみ、ドライヤーの準備はよろしくて?」

「お蝶夫人!?…おぉ、見事なチョコレート色!かいらしいわぁ」

肩からタオルを掛けてシャワーを終えてお嬢様口調で廉造に声を掛けると驚いたようなリアクションが返ってきて私は満足気に頷き廉造の前に腰を下ろす。
適当に拭いただけなので水気をふんだんに含んでいる髪はキャラメルブラウンから少し暗めのチョコレートブラウンへと色を変えていた。嬉しそうに髪を摘む廉造に私の口元も緩んでしまうのは心の何処かで彼の理想とする女性になりたい願望を持っているからだと思う。



「はい、出来ましたえ」

「ありがと、ほんとにムラなく綺麗に染まったねぇ」

ドライヤーが止まり、飛散した私の髪を廉造の指が綺麗に整えていく。毛先が僅かに湿った儘だが別に自然感想でも良いだろう。洗い流した毛染め剤が入ったボトルを窓際に敷いたピザのチラシの上に置いて自然乾燥させる。手袋やパッケージなどを捨てていきあらかたの片付けを終わらせごろりとベッドに横になると廉造が上機嫌な笑みを浮かべた儘私の上に覆い被さってきた。

「ン、…廉造くん、どうしたのかな」

「アハハ、名前ちゃんの髪見とったら美味しそうやなと」

「髪と身体は別なんだけどなぁ」

首筋や肩口にリップノイズを立てて口付けを落としてくる廉造の肩を押そうとするもあっという間に廉造の手に絡め取られ上で一纏めにされ身動きが取れなくなる。私の髪の色を美味しそうだなと思い、髪が美味しいならば私も美味しいだろうという結論に至り私を押し倒してくる辺り、廉造の考えを把握するのは雲を掴むように難しい事なのが伺える。

「髪も含めて名前ちゃんなんで」

そう言って笑った廉造の唇に呼吸を奪われながらまぁ仕方ないかとこの状況から回避する事を素直に諦め、拒否の姿勢をくしゃくしゃに丸めて頭の隅へと投げ捨てて彼の首の後ろに腕を回した。

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