ポケットに入った万華鏡が二つ共ぽろりと零れ落ちてテーブルの上をころりころりと別方向に転がっていく。まるで誰かと誰かみたいじゃないかと揶揄しようとした声は光の哀願するような声で遮られた。

「ほんま…先輩は自分勝手やで。俺の事勝手に拾うて、いらんくなったら簡単に捨てよってからに…ほんま、ほんまに、酷い…俺が、ずっとどんな気持ちで先輩と接してきたか、知らんくせに、」

ぐ、と私の体の横についていた手が結んだり開いたりを繰り返している。体重にぎしぎし、ばきりとキャンバスが悲鳴をあげる。足が浮いていて中途半端な姿勢になっているせいで腰と肺が痛い。上手く息が出来ない。揺れる視界の中で光の瞳に膜が張っていくのがよく見えた。彼は変わらず泣き虫だ、普段はツンデレのくせに。

「立海に行くんはもう決まった事やし何も言われへん。そもそも俺が先輩の進路についてとやかく言える立場やない。でも、でも…先輩。もし先輩が体育館で言うた事がほんまなら…嘘とか、冗談やないって言えるんやったら…お願いがあります」

意外にも。光は涙目になりながらも、鼻声になりながらも涙は溢さず耐えていた。私は何も言わずにそれを見上げていた。
久しぶりの全速力に軽い目眩を覚えていたのもある、けれどそれ以上に目の前の片思い相手が何よりも魅力的で目を逸らす事が出来ない。彼が紡ぐ言葉を一字一句逃すまいと私の体の全神経が集中していた。


「あと一年、俺に片思いしてくれませんか」


「必ず。必ずアンタに追い付いて、この手を掴んでみせるから。…だから、」


「立海で首洗って待っとけや」

にやりと笑った彼には涙の膜も頬の上気も見当たらず、いつもの可愛げの無い後輩の顔に戻っていた。だから私もいつものようににんまりと笑ってやった。息苦しい上にこの体勢もぶっちゃけ限界がきていたし、キャンバスも二人分の体重を支えきれずにばきばきと木枠が割れる音が聞こえていたが、それでも笑った。

「なら、今日は私達の親友絶交記念日ってところだね」

「ついでにメリーさんのお葬式でもやりましょか」

「今思えば酷いあだ名だ」

「ええですやん、めっさ俺得でしたわ」

名前先輩、なんて甘えるような声を出して覆い被さってくる元忠犬改め可愛い後輩はまだまだ甘えた盛りらしい。私はと言うとそんな光の首に腕を回して手探りで手繰り寄せた万華鏡を覗き見る。青、黄、黒、緑、赤の五色のビーズがバラバラに混ざり合って様々な模様を形成していく。ああ、綺麗だね。親友だった昨日までの君にも見せてあげれば良かった。だけどこれは『親友の』君に宛てたものだから、もう君にも、私にも、必要ないものなんだよ。だから没シュート。綺麗な放物線を描いてがこんがこんと続けざまにゴミ箱に入った其れを満足気に見つめる。あらやだ私ったらバスケの才能に目覚めてしまったかもしれない。

「俺のシュートは……落ちん!」

「先輩黙っとって下さい」

間髪入れずに怒られた。
そんな春の温かい一日。私はまだこの後輩と両片思い中です。
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