桜舞う季節。清々しい程晴れ渡った空の下で私達三年生の卒業式の飾り付けもその儘に、体育館では卒業生による大暴露大会が繰り広げられていた。
三年間言えなかった事、言いたかった事、何でもありで叫ぶ事が出来るこの行事にノリノリで参加する生徒は少なくない。

「国語の田中はカツラやと思ってましたー!!」

「理科の青田先生!六月に試験管割った犯人私です!すんませんでした!!」

「うおおおお野球部に栄光あれえええええ」

「二階教室棟の廊下の金魚のお世話忘れたらしばくぞゴルァアア」

様々な叫びが体育館内にこだまする。そのステージ裏では卒業おめでとうのお花のバッジの上から43と書かれた番号札を付けて順番を待つ私の姿があった。
隣には44、45と連番で番号札を付けたこてこての漫才衣装に身を包んだ一氏くんと金色くんがそれぞれ異なった表情を浮かべて私を見つめていた。

「お前今日が何か知っとるか?卒業式やぞ?まだ財前に言えてへんとかどんだけチキンやねん」

「ユウくんたら口悪いのはどうにかならへんの?…ここまで来たらやるしかないわ。名前ちゃん、気張りや」

ええ、そうなんです。私ったらこの日を迎えても尚、光に進学先の事を伝えていない。何処からか情報を掴んできた光のファンがこっそり教えようとしていたけれど、それは白石や忍足が何とか止めてくれていた。本当有難う白石、忍足も夏あたりがっつり嫌がらせしてすまんかった。此処に来るまでに光と遠山くんを連れて体育館に来るというミッションを背負った白石と忍足とハイタッチを交わしてきたし、千歳くんと小石川くんと石田くんには景気づけに背中を叩いてもらって後悔した。約一名、力の制御というものを知らないもじゃもじゃがいた。
ギラギラと光を放つ衣装のポケットから携帯を取り出した一氏くんが指を何度か動かした後、溜め息混じりに私に視線を向ける。

「白石からメールや。ミッションクリア、やそうや」

「了解であります軍曹。今から私は単独任務に向かいます」

「頑張ってね、名前ちゃん」

「当たって砕けてこい」

拳を突き出してにんまりと笑った愛のダブルスペアに私も笑って拳を重ねた。うじうじしたって現実は変わらない。春の陽気なお天気にヤられたと思ってやるだけやっちまえこんちくしょー。
よんじゅーさんばーん!とステージから掛かったお呼びの声に歩みを進める。頑張って下さいメリー先輩、とステージ裏で裏方をやっている次期保健委員会委員長の声に背中を押されるようにしてステージへと出て行った。
直ぐに目に入り込んで来たのは私の背中にクリティカルダメージを与えたもじゃもじゃ頭の千歳だった。それからガタイのいい石田くん、いつも通り地味な小石川くん、石田くんにおぶさっている遠山くん、傷んだ金髪のキングオブビビリの忍足、腕を組んで穏やかな笑みを浮かべている白石、そして呆けたようにぽかんと口を開けて私を見つめる光。そんな光に白石が顔を寄せて囁く。「来て良かったやろ?」大方そんな所だろうか、ハッとしたように元の無愛想な表情に戻った光はそれでも私から目を離そうとしない。やたらでかい蝶ネクタイをした司会二人からマイクを受け取ってテンプレ通りに自己紹介から始めた。

「三年三組ぃ、泣く子も泣き出すメリーだよっしゃああああごるぁぁあああああ」

あ、やべ、ツカミ間違えた。

「いつもはクールなメリーも今日は一味ちゃうな!熱い!熱いでぇ!」

「ついでに突っ込ませてもらうと泣く子は既に泣いとるから意味ないで!!」

やんわりとしたフォローを入れてくれた司会二人は良く見たら同じクラスのan・anコンビだった。お前等いっつも仲良いなちくしょうホモか!!でも…嫌いじゃないぜ…、と十年後位に思い出したら確実に黒歴史認定レベルでのハイテンションだった私はan・anコンビとサムズアップを交わした後、マイクを口元まで持ち上げた。

「私のかわいい忠犬財前光ぅううううう!!こちとらテメェに一言言わせてもらいたいんじゃあああああ!!」

デスボイス並に声を張り上げて叫べば一気に盛り上がる体育館内の雰囲気とうってかわって、光は名指しをされた事に驚いたのかびくりと身体を震わせた。あああちくしょうかわいいなかわいいよ光ひかるヒカル財前光ううううキャンパスに光を描いたあの日からずっと君を裏切り続けていたんだ、ごめんねこんな親友でごめんねでもねでもさだけどもさあ、溢れる気持ちが喉を押し上げる。肺一杯に息を吸い込んで、一気に吐き出してしまえ。

「貴方の事が好きでしたあああああああああ…あぁああああッッ!?」

今、私、何て、言った?
思わぬ告白大会へと変わった私の叫びに更に体育館内が騒がしくなる。返事をさせろ財前光は何処だとざわざわする館内に頬が一気に熱を帯びるのを感じる。違う、違うんだ、私が言いたかったのは進学先が神奈川だって事で、ああハイテンションに酔っていた数秒前の自分帰って来い、あああテニス部の皆が頭抱えてる。ああああもうダメだ、こんな状況で光まで引っ張り出されても耐えられない。

「ああああ…あと私立海に進学シマス今まで黙っててごめん以上デス…ああああ」

何とかそれだけ言うとan・anコンビにマイクを押し付けてステージの喧騒から校舎へと逃げた。ごめんラブルス!あとは告白辺りの繋ぎから漫才に繋げて皆をいつも通り笑わせてやってくれ、もういい。

「もういいんだぁああああっ」

誰も居ない三年の教室棟の廊下をどうでもいい事を喚きながら爆走して廊下を曲がり曲がったその末に、私は美術準備室から六枚が一塊になったキャンバスに未だに渡せていない万華鏡二つわ握り締めて立ち尽くしていた。下書きだけして準備室にしまっていたキャンバス、其処には文化祭で飾った皆の絵では無く下書きの儘動きを止めて光の姿があった。最後にまともに顔を合わせたのはいつだっけ、新部長に任命された光は毎日毎日引き継ぎの為に白石からしごかれる日々を送っており私も引越しやら委員会の引き継ぎなどで忙しかったので最近の会話は殆どメールだった。テーブルに転がったペイントナイフを握り締め最後に聞いた光の声を手繰り寄せる、彼は何て言っていたかな「先輩っ」そうだ、先輩先輩と連呼しては私の腕や肩に引っ付いていた「先輩!」もしもやり残した事があるとするならば。それはこのキャンバスと万華鏡を捨て去る事だろう。

「先輩っ!!」

気付けばペイントナイフはからりと音を立てて床に落ちていて、私はキャンバスの上に押し倒されていた。ぐるんと回転した視界に移るのは、息を乱して汗を滲ませる光の姿だった。
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