・緑間視点

ぎしぎしとベッドが軋む音と共に互いの激しい息遣いと、下腹部から聞こえてくる水音。小さな体躯を更に小さく折り畳んだ彼女は圧迫感からか呼吸する事すら辛そうに顔を歪めている。漸く入ったオレのものも全ては飲み込みきれず、オレの先走りと彼女の愛液と潤滑油として使用したローションが混ざりあっててらてらと根本を濡らしている。
深く身体を貫けば彼女の背中が仰け反り控え目な乳房がふるりと揺れる。誘うような身体の動きに素直に胸の頂きにしゃぶりつけば彼女の細い腕が慈しむようにオレの頭を抱き込む。キメの細かい彼女の肌は何処もなめらかで本能的にオレの物だという証を刻み付けたくなる衝動に駆られる。

ああ、

そういえば、

こんなにも彼女の痴態が鮮明にも映っているのに、いつもオレと世界を分断するアレの感覚がない。

あ、あ、と彼女の喘ぎ声に余裕が消える。オレのを包む熱の収縮が激しい。解放は――もうすぐ其処に来ている。
彼女の腕を掴みオレの目元へと指先を触れさせる。其処に慣れた感覚は、ない。


オレの

眼鏡は――








自然と浮上する意識に反抗する事なく瞼を押し上げれば大分明るくなった室内にいつも見ている景色が入り込んで来る。おは朝のラッキーアイテムの棚、本棚、勉強机、クローゼット、テーブル……一つ一つを確認するように視線に捉えているとふと胸元で何かがもぞりと蠢く。視線を下げて見ると真っ黒な頭がオレの胸に顔を埋め、腕を腰に回して寝相を変えようとしている所だった。

「(……夢か)」

いくらバスケに身を投じていようと身体も精神も所詮思春期、あのような卑猥な夢を見る事はあってもまさか相手が幼馴染みになるとは思わなかった。……というか、何故こいつが此処にいる。オレの部屋の床に敷かれた布団は毛布が見事に捲れており、恐らくは一度手洗いに行く為に起きたものの寝惚けていつもの癖でベッドに潜り込んだ、と。そういう事だろう。

あんな夢を見る程オレはこいつにいやらしい念を抱いた事はない。
つまり、無意識に何かを感じたという事だろうか。いつだ。
背負って帰路を歩んだ所か。オレの服を身に纏わせた所か。怪我した所に包帯を巻いてやった所か。寝るならオレの部屋で、と駄々を捏ねた所か。
……分からない、が下腹部の重みは現実であり避けられない事態でもある。
取り敢えず起きる為に腰に回された腕を掴んで解いた。力加減が、分からない。痛くはないだろうか。この程度でも肩が外れて痛い思いをさせてしまわないかとはらはらする。

「…う、ん。しー、ちゃ」

起きられた。
がばりと頭を上げたかと思うと半分も開いていない目でオレを見上げ、掠れた声で特有の呼称でオレを呼ぶ。その態度に羞恥の類は、見当たらない。

「何故お前がベッドにいるのだよ」

「う、ん?うん、うー……んー…」

「会話をしろ」

「うん」

完全に寝惚けている。
しかし既に朝練に向かう為に起床する時間に近い、構わず身体を起こすも名前はぴくりとも動かずだらりとオレの腰に回していた腕をベッドのシーツへと投げ出した。もう勝手にしろ、そう心の中で全てを投げ出してベッドを降りて手洗いへと向かう。まずは猛った己は鎮める事から始めなければならない。

事のついでに洗顔を済ませてきても名前はまだベッドに転がっていた。構わずに音を立ててクローゼットを開けて制服に着替えて行く。練習用のTシャツとハーフパンツを二着ずつ用意してバッグへと詰めていく。
ふと、背後の塊がもぞりと蠢く。

「しーちゃん」

先程の寝惚けた声とは違い、いつもの声色でオレを呼ぶ。Yシャツのボタンを開けた儘振り向かないわけにはいかないので何だ、と言葉だけ返した。

「……何でもない」

「呼んだのはお前だろう。さっさと用件を言うのだよ」

「……何でもないってば」

「……もうオレは行くぞ」

「うん」

「朝食を摂らねばならない」

「うん」

「おは朝は必ず見なければならない」

「うん」

「高尾がそろそろ来るのだよ」

「うん」

「……。もう行くからな」

鞄を肩に掛けて部屋の扉に手を掛ける。やはり彼女は何も言わない。可愛げがない、夢の中で喘ぐ彼女の方がまだ可愛げがある。
そう考えながら扉を閉める。「あしいたい」、ぼそりと呟かれた彼女の細やかな主張は閉まった扉の音に掻き消された。

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