しーちゃんの背中におぶさるのは小学生以来なので見たこともない位高い視界に頭がくらくらする。下を見ると怖いけれど、いつもより空が近くてちょっぴり嬉しい。
手を伸ばせば星が掴めそうで、私は夜空ばかり見上げていた。

「どしたの名前ちゃん、足痛い?」

「んーん、平気。空が近いなあと思って」

「あー。真ちゃん背でっけぇもんね、今の名前ちゃんオレよりでけーよ」

隣で自転車とリアカーを引く高尾くんはにひひと笑うので私の口元にも笑みが浮かぶ。対称的にしーちゃんは機嫌が悪そうで笑い合う私達に深い溜め息を一つ漏らした。

「お前はいつも目を離した途端に怪我をこさえる……職人か何かなのか?」

「一流になれそうだね!」

「ぶっは!もう何だよーお前等ほんと仲良しだなー!」

しーちゃんの綺麗な緑色の髪は風に揺られてさらさらとなびいている。学ランに腕を通せばしなやかな体躯に見えるしーちゃんは着やせするタイプだ、背中とか肩はこんなに逞しいのに制服を着ると途端に文化系男子に早変わりだ。
しーちゃんの家の前でリアカーをしまった高尾くんと別れる。明日こそオレが勝つからな、なんて捨て台詞を吐いて帰って行く高尾くんが見えなくなるまで手を振る私にしーちゃんは黙って付き合ってくれた。…というよりも私の次の台詞を待っているようだった。
何故なら私の家は真っ暗だったから。

「ごめんねしーちゃん、まさかお父さんもお母さんも今日は帰って来ないなんて思わなかった」

「……」

「ほんとだよ?二人共今日急な出張が入ったんだって」

携帯を揺らして父母からのメールを見せるとしーちゃんは溜め息を吐いて私を自分の家に連れて行く。あらあら、と眉を下げるしーちゃんのお母さんに今日一日お世話になります、としーちゃんの背中から頭を下げて家に上げてもらう。
久しぶりに入ったしーちゃんの部屋はおは朝のラッキーアイテムで棚が一つ溢れかえっていた。
家は施錠されていて、鍵を持っていない私はしーちゃんから着替えを借りしーちゃんのお母さんから未使用の下着を借りて一夜を過ごす事になった。その怪我じゃ歩き回るのは大変ね、と気を遣って二人分の麦茶と夕飯を持って来てくれたしーちゃんのお母さんの背中に礼を言うなり、しーちゃんが学ランを脱いで部屋着に着替えだしたので目を両手で塞いで見てませんよアピールをしておいた。私が着替えている間しーちゃんは練習に使った服を洗濯機に入れに退室していた為、恥じる事なく下着姿になれた。

「足は痛むか?」

「今は痛くないよ。でも麻酔切れてきたから早く痛み止め飲まないと私夜中に転がり回るかも」

「……」

「冗談だよ」

でも食欲無いから半分食べてね。
オムライスを半分に割る私を見たしーちゃんの眉間に皺が寄る。ほんとだよーケチャップが血に見えちゃう程度にはショック受けてるもん、そう言ってオムライスには手を付けずにコンソメスープばかりに構う私を見たしーちゃんは少しだけ目を見開いていた。

しーちゃんのお母さんに頭を洗うのを手伝ってもらい、借りたタオルで身体を拭いてしーちゃんの部屋に戻るとしーちゃんが救急箱を開けてガーゼと包帯を用意していた。言われるが儘に胡座を掻いて座るしーちゃんの膝の上に怪我をした方の足を乗せる。身体を拭く為に包帯を取っているので縫い合わせたばかりの傷口は露出している。暫く傷口を見ていたしーちゃんは緩やかに首を横に振った。

「これは残るだろうな」

「すごいねしーちゃん大当たり」

「自慢気に言うな」

何も言わずに新しくガーゼを当てて包帯を巻いてくれるしーちゃんは本当に優しい。私みたいなのが幼馴染みでいいのかな、中学の時から影で言われていた事が今更になって首をもたげてくる。
一度問うた事はある、好きな人はいないのかと。凄い剣幕で怒られたけど。

『そんな馬鹿らしい事に現を抜かすよりバスケをしたい』

とか何とか言っちゃって。
ねえしーちゃん。それってしーちゃんを好いてる人にとっては安心する言葉だと思うんだ。だってバスケを続けてる限りオレは恋人は作らないって言ってるようなものだもんね。

「きつくないか」

「うん、平気。ありがとう」

「…無理はするなよ」

「うん」

そうやって私を甘やかすから、もう何年も貴方から離れられない儘なんですよ。緑間真太郎さん。

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