ふにゃふにゃになった涙腺を無理矢理抑え込みどうにかこうにか洗い物を終えた所に丁度風呂から上がった兄が浴室から出て来た。
肩にバスタオルを掛けて湯に濡れて色濃くなった髪を拭きつつ、笊に上げられた器をしげしげと見ていたのでそそくさと部屋に戻る。元々少ないHP(元気)もMP(勇気)も残り僅か、色々と限界だしもう家に帰りたい。だがそれも部屋に戻って来た兄から手渡されたバスタオルによって無惨に砕け散った。

「いたい」

両腕両足共に縄の痕がくっきりついて真っ赤になっていた。ついで実渕さんに掴まれた所もくっきり手形の形で赤くなっている。
別に暴れたりはしていない筈なのに擦れて皮が所々剥けてしまっている。擦れた所だけ避けて身体を洗っていると部屋のインターホンが鳴り響き私の身体は大袈裟に跳ねた。ぱたぱたと玄関に向かう足音を聞きながら泡を纏ったスポンジで胸元を洗って行く。来客は一言二言言葉を交わしただけで直ぐに帰っていき、兄もその儘部屋に戻る筈、なのに。

「今、開けてもいいか」

磨りガラスの扉を叩いて兄が問うてきて、思わず変な声を出してしまった。びっくりした、びっくりした!そして恥ずかしい。穴があったら入りたい。
兄は暫く黙っていたもののドアを捻って顔を覗き込ませた。バスタブの中に座り込み顔だけ覗かせている私を確認すると着替えとして渡されたTシャツとハーフパンツが入っている壁に掛かった籠へビニール袋を放り込んだ。

「上は無い。文句言うなよ」

そう言うなり顔は引っ込み扉もぱたんと閉じられた。
文句?と疑問抱きつつそろりとビニール袋の中を開けばコンビニで売られている女性物のショーツが入っていた。何だこれ。こんなの私が知ってる兄じゃない。もしかして私死んでるんじゃないか、それでこれは…夢だったり…。

「いたい」

しないですよね、そうですよね。めくれた皮膚がぬるま湯を被り悲鳴を上げる事が現実だと教えてくれた。


風呂から上がるなり兄に手を引かれ足と腕の治療を施された。巻かれた包帯から兄のいつもの神経質な所が伺えて少しだけほっとした。料理と下着について礼を言えば大分落ち着いたとみなされ、事の次第について聞かれたので簡潔に説明した。

「拉致監禁されたけど帰っていいと言われたので帰って来ました」

兄は盛大にしかめっ面を浮かべた。

「帰って来てすみません」

謝ったら更に怖い顔をされた。怖い。拉致監禁されてた間の事を更に詳しく説明していくとスナッフビデオのくだりで兄が纏うオーラが段々凍りついていった。恐ろしさ故に色々振り切れてスナッフビデオの撮影に賛同した事は言えなかった。
ベッドに寄り掛かりながら話していたら次第に眠気が襲ってきてうつらうつらと首が上下に動き出した。途中途中記憶が途切れる度にハッと目を覚まし兄を伺ってみると兄は無表情の儘携帯を操作していたのでもういいや、と全てを放棄して意識を手放した。

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