おまけ程度の存在でも小さい頃はまあ、楽しかった。と言っても殆ど覚えていないので具体的なエピソードは思い浮かばない。
それに楽しかったというのも今の暮らしや環境に比べれば、というもので表現を変えるならば"ぬるま湯程度"だろうか。

ぬるま湯が温度を上げ始めたのは中学に上がった頃だった。親の意向に合わせて兄と同じ帝光中学に入った私は徐々に兄と遊ぶ事から距離を置きつつあった。兄はバスケ部に入り同時に思わぬ形で才能を見せる事になった。
バスケで才能を発揮する兄に両親は手を叩いて喜び、彼の更なる成長の為にありとあらゆる支援をした。部活には属さず読書や絵描きをのんびり楽しんでいる私に両親は口を揃えて「お兄ちゃんも頑張ってるんだから、貴女も早く何か始めなさい」と言い続けていた。

「お昼何処で食べるー?」

「中庭にしよぉ」

「ええー、暑いじゃーん」

「……」

昼休みの校内は本当に騒がしくて教室や廊下に溢れる人の量に思わず視線を下げてしまう。
近くで現代っ子らしく髪を緩く巻いた女の子達が昼食を摂る場所について議論を交わしている。読みかけの本を開けば私の思い込みだとは分かっていても喧騒が遠ざかる。

小説を書いて賞を貰っても。
絵画を描いて賞を貰っても。
考査で上位に名を連ねても。
無敗を誇るバスケ部のレギュラーに名を連ねる兄に感化されたのか「一番が当たり前」と当然のように考えている両親は決して納得しなかった。「一番じゃなきゃ意味がない」、そう言って私の評価を一蹴する。
運動は度が過ぎると直ぐに過呼吸を起こしてしまう。何もかも中途半端、そう判断した両親はいつしか私を腫れ物を扱うような反応しか示さなくなった。
二位や三位が居るから一位がいるんだよ、その言葉すらも両親には言えなかった。

「あー、赤司くんだ!」

「他のレギュラーも居るね!」

「いつ見てもかっこいいー」

そろそろ弁当を食べようと本を閉じた瞬間、教室や廊下がざわめきだす。行き交う人々が自然と端に寄る位に活躍しているバスケ部のレギュラー達がぞろぞろと購買がある方向へと歩みを進めている。
その中に私と同じ赤が居る。周りに居る生徒達がちらりと私に視線を向けるのが分かるが知らない振りをして弁当を取り出す。
バスケ部は何故かこの時間帯に一年の教室が並ぶ廊下を闊歩しては購買に行き、体育館で仲良しこよししながら食べているらしい。兄はと言えば購買についてはいくものの体育館にレギュラーがやって来る頃には姿を消しているらしい。大方空き教室か屋上で食べているんだろう。

「あの赤司の妹とか、マジ可哀想だよなあ」

「兄がスゴすぎて妹はちょっと影薄いよな」

「そういえば赤司さんって友達いるのかな。他人と話してるの見た事ない」

「赤司とも話してるとこも見た事ないよな」

ぼそぼそと影で言葉を交わしているクラスメイト達に聞こえてるよ、と心の中で悪態を吐きながら私は静かに手を合わせた。下らない詮索はしない方がいい、知らない物は知らない方が遥かに幸せな事を愚かなクラスメイト達は知らない。

「いただきます」

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