「やだ名前ったら、だらしないわよ」

「違う、違うんだ母さん。これは私の背中に精市の馬鹿重い頭が乗っているからであって…」

「あらあら、幸村くんったら寝ちゃったのね」

精市の家の居間で課題を広げながら談笑をしていたが、先に集中力が切れたのは驚く事に精市の方で私は明日神奈川には槍が振るのでないかと結構真面目に悩んでいる。最初は肩にこてんと乗せる程度だったのが次第に傲慢に背中を差し出せと言わんばかり頭をぐりぐりと肩に押し付けてくるものだから仕方なくテーブルに上半身を倒して重みに耐えていた。
火葬と納骨を終えて喪服姿で帰って来た母がそんな私を見るなり眦を上げて怒るものだから、慌てて弁解をしてみれば私の背中に乗った精市の頭を見てコロリと表情を変えて笑った。

「名前、幸村くんと相変わらず仲良いのねえ」

「……うん、まぁ。こいつ全然変わらないからね。全国でも会ったし、腐れ縁ってやつなのかも」

「ふぅん。ねえ名前、高校は立海にしない?」

「そういえば進路について全く話し合ってなかったね。立海かあ立海もいいよね……って、え?」

「幸村くんのママとも話してたのよー、小中は引き離しちゃったし、高校位は一緒の所に通わせましょうかって。幸村くんは変わらず立海だろうし…名前が幸村くんの家に居候しながら立海に通えばいいと思って」

まさに絶句である。
っつーか子供の預かり知らぬ所で親で話を進めるなと何度注意した事か…!っていうか私志望校立海じゃなくて四天宝寺だって言って……なかった。前述の通り私と母が高校の進路先について話すのはこれが初めてである。遅い。非常に遅い。どれ位遅いかって一年位遅い。何故気付かなかった私!周りが受験受験って煩いと愚痴っているから何も言ってこない私の両親きゃっほー!とか思ってたあの日の自分よ、左頬を差し出せ。テメェの百八ある煩悩を消し炭にしてやるよ!石田くんがな!!

「僕も賛成。名前と一緒の高校なんてわくわくするよ」

「テッ、テメェエエエ精市貴様起きてたなぁあああああ!!」

「名前、乱暴な口のききかたはおよしなさい」

「品が無いよ」

うわあああああああああ!
逃げられねええええええ!
アットホームな雰囲気にすっかり騙されてしまった、思えば此処は神奈川。私にとってはアウェイ、つまり敵地だったのである。二人の悪魔が顔を寄せあい笑っているのを見上げながら無力な子羊はただただ身体を震わせて成り行きに身を任せるしかないのでありました。
なんだかんだで私に甘かった精市は何処に行ったんだ。

「甘やかしてばかりじゃいい子には育たないからね」

こいつは私を観葉植物か何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。
結局大した抵抗も出来ない儘私の進学先は立海へと決まりその日の夕飯の席で大々的に発表された。私の両親は手を叩いて喜び精市の家族も春から宜しくと嬉しそうに私の頭を撫でた。精市は満足気に頬を綻ばせるとまるで自分の物のように神奈川にいる間の私はずっと精市の傍に居させられた。



まあ、でもいい機会だったと思う。進学先が神奈川に決まってから光に対する気持ちと真面目に向き合う事が出来たから。
立海に行く事になった事は神奈川から大阪に戻って直ぐに白石と小石川くんに話して、それから三年の元テニス部のメンバーに話した。忍足は約束したやんか、と子供の様に駄々を捏ね、千歳は笑いながら寂しくなると呟き、一氏は興味無さそうに頭を掻いて、小春ちゃんは眉を下げて悲しんでくれた。
結局光と遠山くんには話す機会を設けられない儘、季節は過ぎて雪が降りしきる神奈川の地に受験票を握り締めて下り立つのであった。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -