◎幼馴染み
◎みんなのトラウマ「トンカラトン」警報発令中


夏ってこんなに暑かったっけ、なんてぼんやり思考を巡らせながら身体全体に響く振動に身を委ねる。
目の前には自転車を漕ぐ高尾くんの背中。因みに部活が終わって直ぐに私が呼び出したせいで彼は汗が滲んで色の変わったTシャツとハーフパンツ姿の儘です。ほんとごめんなさい。

「高尾くんごめんね、ほんとにごめんね」

「いやいやぁ、真ちゃんの可愛い可愛い幼馴染みの名前ちゃんの頼みなら断れないっしょ。つかオレもこの儘帰った方がソッコー風呂入れて楽だし?名前ちゃんが気にする必要なんて全く無いからさぁ」

自転車を漕ぎながら肩越しにけらけらと笑う高尾くんの顔を見て少しだけホッとした。しーちゃんの大切なパートナーなのに、嫌われたらしーちゃんにも迷惑を掛けてしまう。

「オレ的には真ちゃんと名前の思い出話とか聞きてぇし」

「うぅんとね…昔はよく二人で連弾してたんだよ」

「レンダン?」

「うん、連なって弾くで連弾。一つのピアノを二人で弾くんだあ」

「へー、なんかすげぇじゃん」

「てへへ」

ピアノをやっていた頃は同じ位だった身長はしーちゃんがバスケを始めた頃からどんどん差がついていって、今やしーちゃんは人より頭一つ突き抜けた身長になってその髪色もあってか人一倍目立つ人になってしまった。私は平均身長平均体重、髪も真っ黒で誰よりも地味だと思う。
それでもしーちゃんは変わらず私の手を引いて導いてくれるし、しーちゃんが居ない時は高尾くんが相手をしてくれる。女の子の友達は未だに怖くてさっちゃんしか居ないけれど、それはもういい。女の子の群れはいつだって末恐ろしいものだ、しかもそれが我が幼馴染みに恋しているならば尚更。
ごろごろがたがたと揺れるリアカーの中で身体を縮めながら手にしているものをぎゅうと握る。
最近試合続きで全然構ってくれない幼馴染み様に抗議を唱える為にこんな行動に出たわけだが、自分からしーちゃんに何かするというのは初めてなのでこれで嫌われたらどうしよう、なんて今更ながら不安感が私の胸中を支配する。あああどうしよう…怒ったしーちゃん怖いのになあ…、そんな事を考えている内にリアカーを牽引している自転車がキキッとブレーキを掛けて停止する。どうやら駐輪場から校門に着いたらしい。

来たよ、と頭上から降ってくる高尾くんの声に身体をぐ、と縮める。
コンクリートを蹴って此方に近付いて来る足音のリズムは聞き慣れたしーちゃんのものだ。

「高尾、お前着替えていないのか」

「トン、トン、トンカラトン!」

「!?」

胸に木刀を抱えてリアカーの中で立ち上がった私を見たしーちゃんは華麗に二度見をキメた後顎が外れん口を開けて私を凝視してくる。
露出している部分は全て包帯で覆い、木刀を抱えている私の姿は確かに奇抜の域を越えて最早変人だろう。だがしかし、私は此処で諦めるわけにはいかないのだ。
抱えていた木刀の先端をしーちゃんに向けて私は静かに唇を開いた。

「トンカラトンと言え」

「……」

「……」

「……」

あれっ。

「トン、カラ、トン、と、言え」

「……」

「……」

「……」

今までずっと前を見ていた高尾くんが振り返るなりしーちゃんと同じように二度見をキメた。リアカーに乗る前はTシャツにショートパンツと至って普通の服装だったのに、振り返ったら全身包帯で木刀持ってたらそりゃ吃驚するよね。高尾くんほんとごめんなさい。
で、でも沈黙はないよ。せめて突っ込むとか、そういうのが欲しかった。まさかの予想を斜め上にぶっちぎる展開にふにゃ、と私の声が震える。

「ト、トンカラトンって言ってよお」

「……」

「……」

「うぇえ、頑張って包帯巻いたのに…トンカラトンって言ってくれないよお」

「……」

「……」

「し、しーちゃ…う、っ、無視しないでっぶふっ」

「お、おま…っ」

しんと静まりかえったこの場をどう収めて良いのか分からず涙腺が崩壊しかけた瞬間、顔面にしーちゃんに鞄から取り出したジャージを投げ付けられ思わずリアカーの中に座り込んでしまう。
ガタガタとリアカーが揺れて広いリアカーの中に大きいしーちゃんが入って来た事で一気に中が狭くなる。ジャージを取り上げようともそもそしている所に自転車が動き出し、ぷあ、と漸くジャージを顔から引き剥がした所に待っていたのは眉を寄せたしーちゃんの姿だった。

「お前は馬鹿か!」

「馬鹿じゃないもんトンカラトンだもん!」

「せめてTシャツを着ろ!包帯を巻いていても今のお前はただの露出魔なのだよ!」

「露出魔だと!しーちゃんの変態さんめ!」

「お前がだ!」

「真ちゃーん、保護者なら名前ちゃんの躾はちゃんとしなきゃっしょ」

オレの家で着替えてから帰れ、とジャージを着せてもらってしーちゃんと一緒にリアカーに乗って高尾くんに送ってもらう時間はとても楽しかったです。
二人分の重みを全身で受けてバテている高尾くんには後で何か差し入れしてあげようと思いました。

12.9.12 修正
12.10.4 再修正

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