数日宿泊の予約を取ったポケセンの部屋の中でフレンドリーショップで購入したタウンマップを広げるとその場に居た全員がどれどれとマップに顔を覗かせてくる。私はその中の白髪の野郎の背中にもたれ掛かって体重を掛かりながらマップを覗いている。
「で。漏れらは今どの辺に?」
「この辺。さっき看板に書いてた」
「これからどうするの」
「それはマスターに聞かねえとなあ」
ぽけっと天井を見上げていた私をジト目と隈だらけの目が覗き込んでくる。まるでタウンマップになったかのようだ。
「どーしよ、助けてフワライドさん」
私の背中にいる白髪野郎は先程までモンスターボールに大人しく収まっていたフワライドであり、深海色のサイドヘアが風になびくジト目っ子がグレイシア、そして隈が濃く浮かびにたにたと笑っては謎の言葉を口走るのがジュペッタ。
私がこの世界に来てからゲットした子は全てこの様にポケモンからヒトの姿へと変わる事が出来る。理由は分からない。ヒトになっている間は周りからもヒトとして見られるし、ヒトの形をとっている時に話す言葉はしっかりと通じる。いや違う、ジュペッタの使う言葉は全く分からない。決して、お伽噺の類でもないし私の妄想でもない。
「いやいや、いい町じゃないか。サンギタウン」
フワライドがマップに印を付けてくれた場所は地図の左端の方で、私達がシンオウ地方から潜った洞窟を抜けた先にあった町だった。初めて来るシンオウ以外の地方にテンションが上がりまくって一勝負してしまったが、はてさてこれからどうするか。
「取り敢えず、情報収集だよね。…私達この町の名前しか知らないし」
「まー…情報収集ならスペシャリストがいるわな」
「ふひひ!フワライド氏、それはそれはもしかして漏れの事?」
「めいさんひんをたべたい」
「ああ……もりのヨウカンとか?」
「……」
「……」
「……」
「…うん。私が悪かった。ごめん」
私達の脳裏によぎるのはハクタイの隠れ名物……ではなく、ハクタイの森の奥にそびえる森の洋館。
ナタネさんに調査を依頼されて足を踏み込んで以来、あそこであった出来事はしっかり私達のトラウマになっているのであった。
グレイシアの目付きが三割程悪くなった所でジュペッタがいそいそと愛用のPCを取り出してくる。ジュペッタはポケモンちゃんねるという多くのトレーナーが集うインターネット上の大型掲示板の常連で私達の欲しい情報も大抵は其処で済んでしまう。
「あるじ。おなへ」
「俺もおなへー」
ふひふひ笑いながらキーボードを叩くジュペッタの横で二人が引っ付いてくる。
すっかり移ってしまった私の口癖に苦笑を漏らしつつ何かあっただろうかと自分のバッグを手繰り寄せた。