少女――名前は今日も相変わらず公園の入口に立っていた。
前は虚ろだった表情も瞳も、とある切っ掛けで大分明るいものへと変わった。しかし、そんな名前は最近とある悩みを抱えていた。腕を組んで考え込む名前の目の前を通り過ぎる買い物帰りの主婦二人の会話が耳に入り込んで来る。

「あんなインチキがどうしてテレビに出てるのかしら」

「まだ子供だからって調子に乗ってるんじゃない?」

「「あの小羽って霊能者」」


孤独だった名前を最初に見つけ出してくれた大切な友人、五月七日小羽が色んな人から陰口を囁かれている。小羽は見えないものが見える"霊能者"として日々にテレビに出ているらしいのだが、人は何故か小羽が気に入らないらしくこそこそとインチキだ嘘吐きだと悪口を吐き出す。それだけで名前の胸は抉られるように痛み襲われ悲しい気分で満たされてしまう。小羽は嘘を吐いたりデタラメを言ったりしない。分かっているのに、知っているのに、名前の口ではいくら喚き散らしたとしても道行く人には聞こえないのだ。まるで、存在しないかのように。

「小羽…」

坂を転がる石は坂が終わるまで終わりはしない。石が小羽なら坂は周りの評判だろう。転がれば転がる程評判は落ち小羽の悪口が増えていく。終わるのはいつ?誰が終わらせてくれるのだろう?
己には知りえない未来に名前は手を組んで曇天の空に願うしかなかった。どうか、どうか小羽だけでも幸せになれますように。
祈る名前の前を二人の男子学生が横切っていく。手提げを持った眼鏡の一人は焦燥の表情を、寡黙そうな見た目のもう一人は一瞬名前を認識し一瞥するも名前は学生にも視線にも気付かない。二人が小羽の坂に終止符を打つ存在だという事にすら気付かない儘、彼女の祈りは夜の戸張が降りるまで続いた。


コツリ。
手を組んで坂の終わりを願っている名前の耳に誰かの足音が入り込んでくる。
コツリ、コツリ。
それはまるで自分に向けられているような気がして名前は静かに瞼を押し上げ公園に建った街灯が照らす人物へと瞳を向けた。

「アナタね、名字名前さん」

街灯の明かりに照らされ立っていたのは一人の女性だった。体躯は細く、長く。足首まで覆うタイトなロングスカートタイプの衣服はまるで彼女の為に仕立てあげられたかのように、彼女の持つ繊細で強かな雰囲気を際立たせていた。そして名前は彼女の雰囲気に何か既視感のようなものを覚える。何処かで会ったような、見たような…靄の掛かった曖昧な認識に名前は静かに瞳を細めた。

「私は壱原侑子。とある人物の依頼でアナタに会いに来たの」

えんじ色のロングスカートに白いスカーフが風に揺れる。侑子と名乗った女性は微笑んでいるような、何処か悲しんでいるような幾つもの感情が混ざった表情で名前を見つめる。

「小羽、ですか?」

「いいえ。でも、小羽ちゃんにとても近いニンゲンからよ」

流れるような黒い髪を揺らして侑子は名前に一歩近付いてくる。名前は何となく、ただ漠然と理解した。自分はもう二度と小羽には会えない、転がり続けた小羽の坂は終わり己は然るべき場所へと行かねばならない時が今だという事を。

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