そもそも、クラスの学級委員長を紙切れ一枚で決めるという事はいかがなものだろうか。
一秒で委員長が決定した男子に対し、やりたくない面倒くさいとぐだぐだ平行線を辿る女子達に下されたのは問答無用のくじ引きで、結果何故か私に貧乏くじが回ってくる。

はぁあああと吐き出した溜め息に隣を歩く男子の柳眉にきゅ、と皺が寄せられる。文句を言われる前に謝ればフンと鼻を鳴らして小言を言われた。

「我の気分まで下がるであろう、不快だ」

「うん、そうだね、ごめんね」

「慣れ慣れしく接するな」

「……すみませんでした」

我先にと学級委員長男子代表に立候補したのは隣を歩く毛利元就くんだ。所謂知的クールな男で、その口から吐き出されるのはトリカブトも吃驚するくらいの猛毒で入学式から整った顔に群がった女子達は一瞬で蹴散らされてしまった。その反面日光浴が好きなのか学級委員長になって早々その権限を使って席替えを行い、ちゃっかり窓際の一番日当たりの良い席をゲットしていた。
愛想がなく毒ばかり吐く奴への対応は身内に一人いるお陰でばっちりマスターしている為、へこへこと低姿勢を保ちつつ謝っておけば問題は無い。放課後、体験入部に向かう新入生の背中に焦がれつつ既に校舎内を網羅している毛利くんに貶されながらも案内してもらい漸くクラスの学級委員長と生徒会の顔合わせを行う生徒会室へと辿り着いた。スライド式の木製の扉の向こうはがやがやと騒がしく、既に大分人が集まっている事が伺い知れる。
私達を隔てる扉に一歩進み出た毛利くんは怖じける事なく手を掛けるとがらがらと大きな音を立ててその扉を開いた。……と同時に喧騒が僅かに止み幾つもの瞳が此方へと降り注ぐ。とは言っても一歩前に出ている毛利くんが壁になっているせいで私の姿は見えていないと思う。

「フン、まだ生徒会の連中は来ておらぬのか」

吐き捨てるようにそう呟いた毛利くんは背後にいる私に気をくれずさっさと所定の席まで歩いて行ってしまった。慌てて毛利くんの後を追い隣のクラスらしき人と毛利くんの間の席に着くと程なくして扉ががらりと音を立て開き数人の生徒が生徒会と札が立てられた席に着く。

「皆集まっているかな?それじゃあミーティングを始めようか」

「はじめに生徒会と共にクラスの代表として任を担う者としての心得を配布する。順に一枚ずつ取り隣に回せ!」

ホチキスで留められたA四サイズの冊子の束を毛利くんから貰い一枚取って隣に回す。長々と書かれた心得だかを読み飛ばしページを捲ればずらりと並んだ学級委員と生徒会役員の名前。……あ、二年の学級委員にぎょーぶがいる。顔を上げて視線をさ迷わせれば私が探して男も丁度私の名前を見つけたのか、ふと顔を上げた包帯まみれの奴と視線が一瞬交わる。わあいぎょーぶと目が合った。

「――それじゃあ一年の学級委員から自己紹介をしてくれるかな。A組から順に名前と…あと、抱負などあれば」

進行役を務めている人の指示でA組の生徒からぽつぽつと自己紹介が始まる。一緒に委員になった毛利くんに迷惑をかけないよう頑張りたいです、なんて当たり障りのない自己紹介を済ませて席に着く。二年、三年と回っていき、全てのクラスが終わったら次に生徒会役員の自己紹介が始まっていく。僅かに頭を下げて会釈をしながら生徒会長をじいと見つめながらつらつらと会長の長所を言い連ねては褒め千切る馬鹿の姿も当然あった。
名字から私と馬鹿の関係に気付いたのかちらりちらりと感じる視線を無視して私は持参したペンケースに入ったボールペンで大谷吉継の名前を黒く塗り潰しぎょーぶと訂正する事に集中した。


「名前」

ミーティングが終わり教室に戻ろうと一人廊下を歩く私を呼ぶ背後からの声にぴたりと足が止まる。振り向こうか無視してしまおうか悩んだ末に肩越しに後ろを窺ってみるとこれから片付けるのだろう、資料の束を抱えた兄、石田三成が其処に居た。その後ろには先程生徒会の席に座っていた方々もちらほらと此方を見つめている。

「どうしたの兄さん、帰りは遅くなる話は既に朝に聞いたけれど」

「わざわざ廊下でそのような会話はすまい。秀吉様と半兵衛様が貴様にも挨拶を、と仰ったのだ」

兄がそう話を切り出すと同時にがっちりした体格の男と細身の男がそれぞれ兄の両側を挟むように歩み出て来た。自己紹介ならさっき聞いたのに、と喉まで出かけた文句を嚥下して二人に頭を下げる。

「初めまして。石田三成の妹の石田名前です。愚兄が迷惑を掛けてはいませんか」

「先程紹介したけれど、こちらは会長の豊臣秀吉。僕は副会長の竹中半兵衛だ。君のお兄さんの働きにはとても助かっているよ、とても愚かとは言い難い位にね」

「友達がぎょーぶ……大谷先輩しかいない寂しい人間ですが、ご指導の程宜しくお願いします」

「貴様も友人は刑部しかいないだろう!」

兄と似て愛想はないだろうが礼儀はなっていると思う。現に目の前にいるこの高校の頂上に君臨する二人の男は無表情の儘数度頭を縦に揺らしたり満足気に微笑み紫のフレームに彩られた眼鏡の奥の瞳を細めている。
もういいかな、そろそろぎょーぶを迎えに行きたい。目くじらを立ててがなる兄を尻目に急いでいますので失礼します、と二人に声を掛けて一礼から背中を向けて足を大きく動かして競歩の如く速さで廊下を進んでいく。遥か遠方から私の名を呼ぶ怒鳴り声が聞こえる頃、私は既に鞄を肩に掛けて教室を出て行った後だった。

「君によく似ているよ。態度や言葉遣いも申し分無し、あとは実力テストの結果次第かな。…ねえ、秀吉。君も彼女を気に入っただろう?」

妖しく微笑み会長に同意を求める生徒会の中で最も頭のキれる男の企みに巻き込まれるのは、もう少し後の話になる。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -