皆の勉強が一段落した時には既に日が落ちかけていて、今日はたこ焼きやし皆食べてってやと忍足のお母さんから夕飯のお誘いを受けてぞろぞろと居間へと移動してきた。ケンヤまだ早いやらほんま無駄多いわ自分等などたこ焼き器を囲んでわいわいと盛り上がっている食卓を眺めながら、バロン人形のエメラルドの瞳に夕日を当てて遊んでいる千歳くんの隣で光と一緒にぼうっとしていると千歳くんがバロンから私に視線を向けて来た。

「あっちゃん行かんでよかと?」

「よかとー」

「よかとっすわー」

暑さにやられてぐったりと壁に寄り掛かる光と一緒に覇気の無い返事をすれば千歳くんはハハッと小さく笑って手元のバロン人形を己の横に大切そうに置いた。お気に入りのようで…千歳くんはあまりコンビニには行かないそうらしく、多分私がくじを引かなければコンビニでそういったキャンペーンをやっている事すら知らなかっただろう。くじを引いた甲斐があるというものだ。猫紳士に夢中な千歳くんと暑さにやられた光と皆の輪に入っていけない私の間に会話が生まれるわけもなく、適当な会話を試みてみた。話題は数日前の全国大会後の打ち上げでの話。

「千歳くん、エゾ鹿やねって結局どういう意味なの?」

「メリーは耳ぃ悪かね?あん時はむぞらしかねって言ったとよ」

「むぞらしかね?」

「ん、可愛いっち意味たい」

「よし!私は耳鼻科行くから千歳くんは眼科行こっか」

可愛いなんて同年代の男子には初めて言われたかもしれない、そう思うと千歳くんの目が急に心配になってきた。そういえば千歳くんは右目の視力があまり良くないと聞いた、やはり眼科だそうだ眼科に行こう。いや違う、眼科に行くべきなのは千歳くんで私が行くべきなのは耳鼻科だ。丁度良い、秋になったらススキの花粉で花粉症になる前に耳鼻科で薬を貰おう。隣にいる光を見るとだるそうにTシャツの襟を摘まんでぱたぱた動かしていた。黒なんか着るからそうなるんだ、光も案外おバカさんだ。

「光、涼しくなってきたら耳鼻科ついてきて」

「ええですけど…ほんまに行くんすか、耳鼻科」

「私ススキで花粉症になるんだ。だから薬貰わないと」

隅っこに放ってあった団扇を掴んで光に風を送ってやると気持ち良さそうにしてくれたので千歳くんも誘って二人で団扇で扇ぎまくった。生温い風が光の前髪を掻き上げて額に滲む汗がちらりと見えた。

「あとニ分…財前が涼しくなるまでの時間ばい」

「もう、腕、もげそう…」

ばっさばっさと力の限り腕を振っていると千歳くんがきらきらとした輝きに包まれる。何事かと思っていたらテニスで使っている技を使ったらしい、普段の生活でもテニスでも使えるって便利だよなあ。そんな事を考えていたら団扇が起こす風の勢いに血が騒いだのかとてとてと此方にやってきた遠山くんがワイもやりたいと言い出したので私が持っていた団扇を渡して交代してもらった。

「それにしても凄いね、千歳くんの才気干ばつの極みは」

未だ光を纏う千歳くんに尊敬の眼差しを向ければ同時にたこ焼き器を囲んでいた一氏くんがくわっと般若のような顔をして睨んできた。

「阿呆!カラッカラになってどないすんねん!」

「いつも思うけど一氏くんのツッコミは激しいよね…」

「超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ー!」

「俺ん家壊す気か!やめぇ!」

「ああっ千歳くんが死にかけてる!まさか遠山くんのデリ車輪を食らって…!?」

「デリ車輪…?」

「遠山くんの技名長いからデリシャスと大車輪取ってデリ車輪」

「センス悪っ!」

「忍足、テメーは私を怒らせた」

「っちゅーか、千歳が死にかけとるんはお前が干ばつ言うからやろ」

ぎゃーぎゃーやってたらいつの間にか皆が騒ぎに混ざってきて、千歳くんが言った通り本当に二分後に光がもう涼しなったんでと控え目に言って来たのには驚いた。最終的によその家で騒いだらあかんと遠山くんと私が白石にチョップされる羽目になり、私はその日の夜忍足に再び無言電話を掛けるのであった。

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