本日、放課後、屋上にて。
上記はいつものように登校してきた私の下駄箱に入っていたルーズリーフの手紙の全文である。
そして放課後、私は手紙に書かれた通り授業が終わって少しの間残暑厳しい晩夏の空を眺めて黄昏た後屋上へとやってきた。校内を連れ歩くには些か目立つ、けれど最早日常茶飯事と化しつつある後輩の光を連れて。てっきり呼び出しは光及びテニス部のファンなのかと思って警戒していたのだが、屋上に居たのはこれまた見た目は地味そのものな男子生徒が一人居ただけだった。

「やばい、奇襲される。後ろから来るぞ光!」

「何がすか?」

「だから奇襲だって!」

「…先輩、今は平成っすよ」

「え、待って、私戦国武将じゃないし。熱も無いからおでこ触るのは勘弁して…あーやっぱ前言撤回、この儘でいいよ」

心配そうに眉を寄せ私の額に触れた光の掌は私の身体よりちょっぴり冷たいだけだけど、ぬるいジュースや太陽の光をたっぷり吸った机なんかよりは全然涼しい部類だ。離さないでと頼めば肯定の返事が聞こえ首筋にもぴとりと光の掌が当てられた。
本当に光は素直で優しくて、私は勿体無い位良い親友を持ったと思う。今度善哉さんでも食べに行こうか、と考えていると先に屋上で突っ立っていた男子生徒が此方に歩み寄ってきた。

「あ、あの」

「…ん?」

「……先輩、誰すか?こいつ」

「さあ、知らない。誰だろう」

「え、え、と。手紙…を、出したんやけど…」

「ああ、これを出したの、貴方ですか」

生み出されてから三年しか経っていない対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースのキャラソンのタイトルのような手紙には宛名が無く、私は仕方なくその手紙の送り主に名無しの権兵衛と名付けた。差出人が男な事は短い手紙の文字をよく見れば一目瞭然で、一瞬でも光は同性愛者にもモテるのかと考えてしまった私を許して欲しい。取り敢えずタイミング良く登校してきた光に謝っておいたら、ヘッドホンを付けた儘の光がきょとんと首を傾けていたけど私の中ではもう同性愛者の件は無かった事になっている。

「まさか後輩も連れてくるなんて思わんかったわ」

今日の放課後、屋上へ来いと言われたが一人で来いとは言われていないから帰りのホームルームが終わるなり光の教室へと向かい用事に付き合って欲しいと頼んで部活までの時間を貰って光は此処にいる。私は間違った事をしただろうか?いいや、していない。
戸惑いがちに眼鏡を上げたり下げたりと忙しい様子の彼にとうとう光が苛立ち始めた。光の手から離れ男子と向き合う私が気に入らないのだろう、やんわりと手首を冷たい指先が包んでもう行こうと促してくる。

「ごめん、光。私この人に呼び出されてたんだ」

「えっ」

「で、用事は何かな。この通り、親友には部活があるから…早く済ませて欲しいんだけど」

今思い出した、と言いたげに呼び出されていた事を告げた私に驚いたように光が目を丸くしている。それを見ない振りをして男子生徒に向き合えば気まずそうに光に視線を向けた後、おずおずと言った風に口を開いた。

「ずっと好きでした。付き合うて下さい」

「えっ?」

「はっ?」

私の手首に触れる指先がぴくりと震えた。千歳くんに可愛いと褒めて貰ったり初対面の男子に告白されたり、まるでモテ期ではないか。あまりの暑さに脳内が茹で上がった状態の私は暫し現実逃避をしてこの頃のモテ具合について真剣に考えていた。
もしこの場に幸村が居たらきっと腹を抱えて笑っていたんだろうな。ぼんやりと遠い地に住む身内について考えながら茹で上がった頭を絞って捻出した言葉を連ね始めた。

「ごめん、今は親友一人で手一杯というか。…手一杯じゃおかしいな。なんていうかもうお腹一杯なんだ。満足してるっていうのか、幸せっていうのかは分からないけど」

「……」

「そこに貴方が入って来たら多分私、食べ過ぎで消化不良起こしちゃうから。だからごめん、貴方とは付き合えない」


部室へ向かう私達の間に会話はない。私はあの眼鏡男子に言った事に何一つ後悔はしていないし、光は私が言った事に何も言わなかった。私の歩幅に合わせるようにゆったり歩く姿も何処か気怠げに背負っているテニスバッグも、きらりと光を放つ五色ピアスもいつも通りなのに何故か全身を纏う雰囲気がいつもと違う。
もしかして、親友だと思っていたのは私だけだったのかもしれない。そうだとしたら、私はとても恥ずかしい事を言ってしまったのではないだろうか。テニスコートのある分厚い門の前についた所で横に立つ光の顔を見上げてみると、長い前髪で少し隠れた目はいつもの無表情のせいで何を考えているか読み取れなかった。

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