▼ 三強とメリー

挨拶を終え、漸く食事にありつく許可が下りた。発言権に続き自由に食事する権利すらも奪われていた事に少し落ち込みつつ、もそもそとサラダを食べていると幸村と同じ芥子色のジャージに身を包んだ人達が此方に近付いて来た。
一人は室内にも関わらず帽子を被っており、もう一人は片手にノートを抱えている。立海三強と呼ばれる"皇帝"真田さんと"達人"にして"参謀"柳くんだ。隣で私のサラダを横取りしていく三強の一角、"神の子"幸村の脇腹をつついて教えてやれば柳くんが柔和な笑みを浮かべた。おぉ、彼も石田くんに続く菩薩的微笑を心得ているのね。

「白石。少しマネージャーを借りても良いか?弦一郎が気になる事があるらしくてな」

「ん、構へんよ。うちの二年がソイツにべったりやさかい、気をつけてな」

「すまないな、すぐ返す」

あっさり私を手離して四天宝寺のテーブルへと戻って行った白石の背中を見送っていると幸村がさも愉快気に俺は同伴してもいいよね?と真田さん達に向かって微笑んだ。私のサラダが消失している。仕方なくチキンライスを口に運んでいると真田さんがぐっと拳を握り締めた。

「メ、メリー。先日の練習試合でお前達が立海へと赴いた時…俺達は初対面のような挨拶を交わしたが、実は俺達は既に面識があるのだ」

「はい、知ってますけど」

「わ、分かっているのだ。この三年で俺の外見は大分変わってしまったらしくてだな、その、気付いて貰えないだろう、が……何?」

「だから、知ってますよ。幸村が通ってたテニススクールに居た"さにゃだくん"ですよね」

「ぶっは!」

細長い柳くんの指がノートを開きシャーペンを握るの見つめながら視線を真田さんに移し確認するように首を傾けてみせれば隣に居た幸村が口を押さえて噴き出した。頭の隅に残っている幼少の頃の記憶を引っ張り出せば、その時の私はひくひくと声をあげて泣いていてその正面では私を見て狼狽えている幼い真田さんの姿があった。

「あの時に泣いたのは真田さんが怖かったからとか、そういうのではなくて。色々あったんです、身内で、ね」

「ふは、ああ…そうだねぇ。懐かしいなあ」

その時の話も当時私が罵声浴びせられていた事も全て事情をよく知っている幸村はひいこら言いながら笑っている。一人訳が分からないと言いたげに眉を寄せる柳くんに幸村くんが第三者からの視点で当時の出来事を話してくれた。
テニススクールで幸村とはぐれ迷子になってしまった私はふらふらと歩き回っている内にトイレから出て来た真田さんとぶつかり、ぶつかった衝動から不安感が一気に爆発し真田さんの前でびいびい泣き出してしまった事があった。どうにかこうにかで泣き止ませた私に向かって名乗ろうとした真田さんは狼狽と緊張のせいか、

「俺の名はさにゃだだっ!」

と大事な所を盛大に噛んでしまい、そんな彼に爆笑した私は丁度トイレにやって来た幸村の目の前でさにゃだくん、さにゃだくんと言って彼の恥晒しに拍車を掛ける真似をしてしまったのだ。
その後私はさにゃだくんにお別れする暇もなく引越しをして、今に至る。真田さんはあの時の事を覚えていないとは思っていたが…まぁあの時物凄く恥ずかしそうにしてたしな、覚えてて当然か。

「合同練習の前に幸村と連絡とった時に真田さんが副部長やってるって教えて貰ったんだ。っていうかこの話、此処でして良かったの?他校の部長さん達、がっつり話聞いてるし皆ポーカーフェイスしてるけど結構口元緩んでるからね?跡部くんなんてもう机に突っ伏してるからね?」

「……構わん。過ぎた話、それに俺が至らなかったせいでもあるからな」

「真田さん堅いよ…でも良かった、覚えててくれて嬉しくない人はいないからね」

「ふむ…」

幸村の話を聞いていたのか無表情でぷるぷる震えている部長達は己のプライド故か、はたまた真田さんの面子を立ててくれているのか…。ビビボーイ一号もとい跡部くんなんかはテーブルに突っ伏してふは、とかくくっ、とか抑え切れない笑い声が漏れているのが聞こえる。
シャーペンを動かす手を止めた柳くんは少しの思案の後、幸村から私へと視線を移した。切れ長というかほぼ線になりつつある目は本当に見えているのだろうか。視界良好?応答せよ。見つめ合っていると「そんなに見つめるな」と笑われた。オールグリーン、異常無し。

「メリーは精市の身内であり、弦一郎とも面識がある。白石とも交流があるようだし、交友関係の中でも財前とは飛び抜けて仲がいい。この四人の中で一番好みの男性は誰なんだ?」

「柳くん」

「蓮二、メリーのタイプは和服の似合う黒髪の人なんだよ」

「…驚いたな。まさか選択肢にない俺を指名するとは」

私としては柳くんと答えた瞬間に僅かに開かれた柳くんの目の方に驚いた。そして四天宝寺のテーブルでは光が着物がどうとか言って一氏くんに詰め寄っていた。相も変わらず賑やかな連中だと思う。
開いた目を閉じてノートに何かを書き込んだ柳くんは真田さんを一瞥して不思議そうに首を傾けた。

「弦一郎も髪は黒いし家では和服をよく着ているな。タイプと一致しているぞ」

「亭主関白が嫌、というか身体に合わなくて。旦那の数歩後を歩くようなキャラではないですし」

「成る程…先日の合同練習でそう感じたのか」

「取り敢えず、感動の再会を祝して記念写真でも撮らない?柳くんも入って入って。南さん、すみませんがシャッター押して貰っていいですか!」

ジャージのポケットに忍ばせていたデジカメを取り出し近くにいた南さんに撮影役を頼み会場の壁側に幸村、私、真田さん、柳くんの順で並ぶ。腕を組んでドヤ顔を決める真田さん、菩薩スマイルを輝かせる柳さんを見てから和やかにピースを作る幸村に倣ってピースを作ってデジカメに視線を向ける。各校の部長達の視線が集まる中、南さんがお決まりの「一足す一は?」とシャッターを切る合図を出した瞬間、ドヤ顔を決めていた真田さんの顔が般若の如く険しくなった。

「南!赤子の手を捻るような問題すら解けぬとは…たるんどる!!」

「ぎゃあ!」
「ぶっは!」
「ぶふっ!」

真横から飛ぶ一喝に驚いた私が叫ぶのと、幸村が笑いのあまり膝から崩れ落ちるのと、「いい友情じゃねーの」と言ってグラスを傾けていた跡部くんが勢い良くノンアルコールシャンパンを噴き出したのはほぼ同時の事だった。

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