「なかなか筋ええんちゃうか」

「おー、女にしては根性あると思うで」

テニス部の副部長である小石川くんと左端のコートを使って無心になってラケットを振る私を見て、白石と一氏くんというあまり見ない組み合わせの二人がうんうんと頷きあっていた。今日は体育の授業が無かった為ジャージが無い私は白石から部室にあった遠山くん用の予備のTシャツと光の長ズボンを借りた。無地の黒Tにレギュラージャージの黄色の長ズボンは当然の事ながら裾が余るので膝までロールアップしている。ローファーでコートに入るのは何だか憚られハイソックスも脱いで裸足でコートに入れば白石に微妙な顔をされてしまった、私は水虫持ってないから安心して!と言えばまた頭に手刀を決められた。
どうやらマネージャー業をやって欲しかったらしい、必要なら裸足ローファーでやると言ったのだが白石曰くノット絶頂らしい。意味が分からない。なので、今はこうして小石川くんに付き合ってもらって乱打をして暇を潰している。
あまり見掛けない光景に部員達もちょっと興味を抱いているらしく、残り二つのコートで試合をしているレギュラー達からちらちらと視線を感じる。何だか恥ずかしかったので乱打相手の小石川くんに会話を試みてみた。

「小石川くんには必殺技とかないの?」

「必殺技……あー…波動球とか、そんなんか?無いなぁ」

「作ろうよ、私手伝うし。小石川くんが強くなれるヒントになるかも」

「お?お、おぉ…そうやな」

「ええと……まずは、そうだな、ご趣味は何ですか?」

「見合いか!」

マイペースにぱっこんぱっこん打ち合ってた私達に隣のコートでシングルスの試合をしていた一氏くんがツッコミを入れてくる。コートの向かい側では忍足が何とも言えない表情をして此方、というか私の裸足を見ていた。そんなに危なっかしいかな、私。

「だから水虫持ってないっつーの!」

「阿呆!んな事心配しとるんやないっちゅー話や!」

「え、えぇえ…忍足に逆ギレされた…」

確かに裸足で駆け回るのはいい歳して少々大人気ない。小石川くんとの乱打を切り上げ履く物を探しに行こうとベンチに向かうと、丁度外周を終えたらしい遠山くんと光が汗を流しながらコートに入って来た。後ろからは顧問らしき男性が入って来て……って、あ。

「渡邊先生…?」

「ん?おぉ、おぉお、名字か!おまっ、とうとう部活やりよる気になったんか!しかもテニス部とか…もう!もう!あかん、泣きそう、涙出るわ!」

オサムちゃんて呼べ言うてるやろぉぉおお、と男泣きされながら抱き締められた上に頬擦りされた。煙草臭いし、目立つから恥ずかしいし。しかも私テニス部入るなんて言ってないし、久しぶりに私の本名呼んでくれた人がこいつとか、もう、畜生め!
今日は名字にコケシやらんとな、と言うだけ言って渡邊先生は踵を返して門の外へと出て行ってしまった。相変わらず自由奔放というか、何というか…あの人のテンションにはついていけないと考えながらローファーに足を通しているとずんずんと大股で近付いてくる足が視界の端に映り込んだ。

「先輩!」

「おっす光ー。ランニングお疲れー」

「先輩…っ」

「え?えっ、えぇえっ?ちょっ、何っ、何で泣いてんの!?」

近付いて来た光はくしゃりと表情を歪ませじわりと涙を浮かばせたかと思うとがばりと私に抱き付いてきた。訳も分からず辺りをきょろきょろ見渡しているといつの間にかコートから離れていたのか、初めて見る黒髪のノッポさんを連れてコートに入って来た白石が驚いたような表情を浮かべて私を見つめた。

「さっきオサムちゃんが名字…やなくて、メリーがテニス部のマネになった言うてたんやけど。ほんまなんか?」

「ああああああああ!!」

「ヒィイッ!光、耳元で叫ばないで!」

斯くして私は四天宝寺に入ってから初めて部活というものに入部したのだった。更に言えば渡邊先生から入部の話を聞いた美術の教諭もなら私もと名乗りをあげ、テニス部だけでなく美術部にも入部させられる羽目になり私は更に肩を落とす事になった。

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