とある日曜日。大学が休みの話はメフィストさんから美味しい中華料理店のリサーチを頼まれて電車に乗って北正十字へと訪れていた。メフィストさんから受け取った気になるお店リストを見ながら餃子や小籠包、点心を食べ歩いていく。途中入ったお店の小籠包のスープで舌を火傷してしまい、今日のリサーチはこれで終わりにする事にした。お店の評価に"小籠包が大変凶暴につき注意"と書き込んで店を出る。家を出た頃は昼頃だったのに空はすっかり夜空へと変わり白銀の半月が道路を白く照らす中駅へと入って行く。

切符を買って改札を通りホームに向かいながらそういえば最近アマイモンさんに会っていない事を思い出す。毎日大学の課題やら何やらで頭が一杯だった為全く気付かなかった、最後に会ってから軽く七日は経っている。
契約者なので喚び出す事も出来るのだが彼にも色々あるだろう、何か用事があって今頃虚無界を飛び回っているのかもしれない。普段は私にべったりだがあれでも彼は"地の王"として悪魔を統べる立場なのだ。きっと何か王様会議とかそんな類いのものに参加しては、つまらないと駄々を捏ねて周りの悪魔を困らせているに違いない。
彼の携帯の番号もアドレスも知っているしメールでも送ってみようかな。そう考えながら長い通路を抜けてホームに出る。日曜日の夜だというのにホームは閑散としていて人気が全く無い。
町中は結構賑わっていたのに…この時間は誰も乗らないのかな、そう考えながら携帯を開きアマイモンさんにメールを打っていく。

「ええと…会議お疲れ様です、っと…」

アマイモンさんが王様会議(仮)に出ている事前提になってしまっているが、まぁいいだろう。アマイモンさんも大雑把な性格だから自分が卑下されていると判断出来る言い方で無ければ何も言わない。
以前メフィストさんから頭に花火が当たりとんがりがもこもこふわふわになっている写真を見せられそのヘンテコさに一頻り笑い転げた事がある。その後これを見て笑った輩は腕を折られ肋骨を折られ血を吐くまで首を締められたと聞かされ、アマイモンさんに対する口の聞き方には人一倍気を遣う事にした。

「あまり駄々を捏ねないで、たまには真面目に会議に参加するようにして下さいね…ん、こんな感じかな」

電車がホームに入って来た。ギイイと高いブレーキ音を立てて速度を緩め停車していく電車を背景に長すぎず短すぎない、あくまで事務的なメールを完成させた。人気の無いホームから電車の一番後ろの車両に乗り込むと、車両の中も人の姿は無く車両の両端にある小窓から見える前の車両にも人の気配は無かった。
こんな日もあるのか、ラッキーかもとリサーチに駆り出したメフィストさんに心の中で御礼を言う。元々食べ歩き用に代金は貰っていたし電車賃だけでお腹一杯食べられるなんて夢のようだ。
私が立っていたホームと向かい合うように座席に座るとドアが閉まりゆっくりと電車が動き出した。

アマイモンさんに打ったメールを送信して鞄から折り畳んでいたお店リストを引っ張り出し今日一番のオススメを決めるべく、走り書きの私の簡単なお店の批評を見ながら歩き回っていた間の記憶を手繰り寄せる。

私はいつでも無知なのだ。
人気の無いホームに現れる電車に憑依した悪魔の存在もその電車に乗ってしまった人間の末路も、何も知らない。

ファントムトレイン
幽霊列車は何も知らず浮かれる私を乗せて走る、走る。
その行き先は、虚無界。

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