入学式を終えた私達は早速配布された鍵を使った塾のある教室へと向かう。清潔的な高等部の校舎と比べ塾の校舎は随分と薄暗く、少々汚かった。出雲様の鞄を肩に掛けて出雲様と朴さんの後ろを歩く。ああ、出雲様の項が輝いて見える。ツインテール最高。ビバ、ツインテール!
そんな心持ちの儘教室に入ると既にちらほらと人が座っていた。フードを被った謎の人物に目付きの悪い不良、眼鏡坊主に頭ピンクの垂れ目。…そして。

「い、いい出雲様!パ〇ットマ〇ットですよ、パペマペが居ます!」

「あっそ。行こ、朴」

「ね、ねぇ、そこの君。ちょっとパペッ〇マペッ〇!ってやって!私あれ好きなの!…あれれぇ?それ、うさぎ?うしくんとかえるくんじゃないの?リストラ?ねぇリストラしたの?」

「……」

「Oh…夕日が沁みるぜ…」

勇気を出してパペマペくんに話しかけてみた。しかし綺麗にスルーされてしまった。なんなんだ、なんなんだちくしょう。窓のない教室なので当然夕日が私の目に入り込むことはなく、蛍光灯を見上げて目頭を押さえるとパペマペくんの後ろに座っていた頭ピンクの垂れ目くんがバフォッと吹き出した。

「あかん、何やのあの子おもろい…!」

「……」

「Oh…ぷっくくく!」

笑い声が漏れる口元を押さえ私を見る垂れ目くんにはあまり興味が湧かなかったので無視してみたら、今さっきの私と同じ反応をされて少しイラッとした。
くるりと踵を返して出雲様と朴さんの後ろの席に座る。途端に垂れ目くんの目が出雲様に移るなりその目玉はハートに変わり、一緒に座っていた坊主の子や不良くんに興奮した様子でしきりに話し掛けていた。ああ、苛々する。出雲様をあの不埒な目玉で舐め回すように見るなんて…!
ギリギリと歯ぎしりしている間に細長い赤い布製のバットケースのような一人の男の子と何故か犬が教室に入って来た。

「犬だよ出雲ちゃん、可愛いね」

「朴がそういうんなら可愛いんじゃない?あたしは興味無いけど」

出雲様は猫派だからなぁ。犬にはてんで興味を持ってくれない。つれない出雲様も素敵!そう思っていると再び扉が開き黒いコートに祓魔師の証であるバッジを身に付けた講師が入って来た。
その姿は先程の入学式で見た顔だった。

「はじめまして。対・悪魔薬学を教える奥村雪男です」

そうだ、この学園に首席で入学して新入生代表を担っていた奥村雪男だ。同い年なのにもう祓魔師の資格を持っているのかと感心している合間にどんどん話は進んでいって魔障の儀式を始める為に奥村雪男はビーカーに用意していた牛乳を注いでいく。そんな奥村雪男に黒髪の少年がつっかかる。何やら怒っているみたいだ、同い年に授業を教わるのがそんなに嫌なのだろうか?

ガシャンと何かが割れる音がした。出雲様と朴さんの間から顔を覗かせると奥村雪男が持っていた赤黒い液体が入った試験管を落としてしまったらしい。ぶわっと少し離れた此方にも悪臭が漂って来る。うえ、と苦い顔をして鼻を押さえる可愛らしい出雲様をしっかり目に焼き付けながら私は鞄に手を突っ込み煙草の箱位の四角いポーチを出す。

「悪魔!」

  ホブゴブリン
同時に小鬼が血の匂いに誘われて天井から落ちて来る。割れた試験管の血の匂いが強すぎて凶暴化している。
小鬼を指で差した出雲様に気付いたのか小鬼の群れが一斉に此方に襲い掛かってくる。出雲様と朴さんの悲鳴を切り裂くように私はポーチから取り出した物を小鬼達に投げ付けた。

「出雲様!早く教室の外へ」

「名前…それ、アンタ、ナイフ…」

「早く!朴さんが怪我しますよ!」

立ち上がった二人を教室の扉がある方へと押しやる。ポーチから出て来た銀色の細身のナイフに出雲様の表情が強ばる。たった一人の親友の名を出せばハッとしたように朴さんの腕を引いて教室の外へと向かう。周りも奥村雪男の指示で次々と教室の外へと出て行く。出雲様達を守るように小鬼に向かってナイフを投げながら教室の外へと出ると、奥村雪男と黒髪の少年を残した儘乱暴に扉が閉められ銃声と何かを言い合う声が響いてくる。

「…出雲様、朴さん、お怪我はありませんか?」

「名字さん、凄いなぁ。ナイフ使て小鬼倒してもた」

「テメェにゃあ発言権なんざねんだよ黙っとけ垂れ目」

「酷い!」

出雲様の答えを聞く前に垂れ目が話に割って入ってくる。またイラッとしたのでキツめの言葉で一蹴すると掌で目を覆って嘘泣きされた。一緒に居た不良に鋭い視線を向けられるが其れを無視して怖かった、と出雲様にしがみつく朴さんの背中を出雲様と撫でてやる。
暫くして何だかすっきりした表情で奥村雪男と黒髪の少年と一緒に居た犬が出て来た。この教室はもう使えないので別室に移動するとのこと。震えていた朴さんは休んだ方が良いのではと考えたが彼女はもう大丈夫だと言ったので其の儘別室へと移動した。

あーあ。出雲様の前ではなるべくナイフは使いたくなかったんだけどな。出雲様は自分は天才だと思っているから、自分より実力が上だったり自分に出来ない事をやり遂げる人間を徹底的に嫌う。私は何も気付かない振りをしているけど出雲様はずっと私を睨んでいる。
そりゃそうだよなぁ。出雲様と出会った頃の私はただいじめられるだけの無力なヤツだったから、そんなヤツに助けられるなんて屈辱以外での何でもないのだろうな。

塾は時間割を見る限り楽しそうな教科ばかりだった。けれど出雲様の機嫌を損ねる原因である、試験管を割ったあの黒髪少年にちょっぴり恨みを抱いたのだった。

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