虫豸の群れに襲われたもののその後は大した障害もなく、十分程進んだ末に辿り着いた場所にそれはいた。
森の中で開けた場所になっているそこはぼうぼうに生えた草の中で三段程石が重なって出来た台座が置かれ、四隅に突き刺さった棒の先には梵字で書かれた封印の札が掛かっている。
台座の上に居たのは提灯…なのだが私が想像していたものとかけ離れているものだった。

「石燈籠…?」

 ペグランタン
「化燈籠ですね」

隣にある台車を見ながら呟けば既に悪魔学の予習を終えている出雲様はああ、と納得したように頷いた。化燈籠は夜、火が点いている時に活動し石燈籠になりすましては近付いてきたものを食べてしまう悪魔だ。四隅に空いた丸い穴に入る生き物なら何でも食べるらしいが中でも女が好物。燃料切れや朝になると火は消え動かなくなる。
隣にある台車からするとこれで運べとの事らしいが…さて、どうしたものか。

「女二人じゃ無理に等しいですね」

「…アンタ、アイツ等を呼びに行こうとしてるわね。そんなのごめんよ、あたしはアイツ等と手を組む気は無いから」

アイツ等と言うのは恐らく勝呂含む京都組の事だろう。訓練が始まる前に最悪枠の奪い合いになっても構わないと言い切ってしまった出雲様の言う事は分かる。しかし四隅にあるこの札に沿った経を読めば火を点いた儘でも化燈籠は封印され身動きは取れない。その方が早いし重いものを運ぶには男が居た方がマシに決まっている。
どうしようかと悩んでいるとはあと溜め息を吐いた出雲様が私に向き直った。

「名前、アンタはこの燈籠の燃料になる小枝を拾って来なさい」

「え、でも化燈籠は…?」

「そんなのこいつらにどうにかさせるわ」

くい、と親指で差した先には使い魔である白狐二匹。びくりと身体を震わせる二匹へと身体を向けると早くしなさいと言って出雲様は白狐達の元へと向かって行ってしまった。
あの二匹じゃどうにもならないと思うけど、と小言も漏らそうにも他に手は無い為私はその辺りにある小枝を拾い集める作業へと取り掛かった。

十分程経ち両腕に小枝を抱えて戻ってくればそこには異様な光景が広がっていた。二匹の白狐の周りにマスコットのような小さい子狐が山のように控えていて、頬を染めてぶるぶる震える出雲様が子狐達を睨み付けていた。
あの出雲様の顔は可愛いものを見つけた時の表情だ。可愛いと言いたいのに言えないもどかしい思いをしているに違いない。一見すると怒っているような表情だが何を考えているのか分かっている私には可愛く見えて仕方なく、つい口元が緩んでしまい出雲様に気付かれないように肩口に顔を押し付けて口元を隠した。

「うわあ、可愛い…!」

「……」

白狐二匹が台座に移動させた化燈籠に枝の半分を入れ火を点け台車の持ち手に白狐二匹、車輪の周りを子狐達が押してゆったりとしたスピードで台車は進んでいる。
私は持参していたビニール袋を手袋代わりに篏め化燈籠の火に寄ってきた虫豸を鷲掴みにして後ろから化燈籠に放り込むという荒業をやってのけている。
出雲様はというと台車から離れた所で虫よけスプレーを乱射して虫豸から身を守っていた。

石造りの化燈籠が乗っているため台車が進むスピードは亀のように遅く、ゴールであるテントがある場所へと戻って来た頃には既に深夜を過ぎ明け方近くだった。森を抜ける寸前遠くから花火を打ち上げる音と閃光を確認した。一体誰がリタイアしたのだろう、虫豸の群れが出た事から察するに志摩辺りだろうか、有り得そうだから怖い。
森を抜け先程まで皆で囲っていた焚火の光を確認すると安堵を感じる。食料用に貰っていた水で燈籠の火を消せばじゅうと音を立てて煙があがり化燈籠はそれっきり動かなくなった。

「や、やっと着い…え、え、宝くん…!?」

「よしよし、名字と神木もクリアだなーお疲れさんっと」

「あたし達が最初だと思ってたのに…」

打ち上げられた花火の元へと向かったのだろう、奥村先生の姿はなく顔を赤くさせて眠そうにへらりと笑う霧隠先生の少し横には相変わらずうさぎのパペットを篏めた宝くんの姿があり私と出雲様は揃って驚きのあまり口をぽかんと開けた儘身体を硬直させてしまった。

「もう一個の化燈籠にも火が点いたのを確認した。何もなけりゃそろそろ着くだろーし、お前等も待機なー」

欠伸を交えながらのんびりとした口調で指示を出す霧隠先生に従い化燈籠を載せた台車を出雲様と白狐に手伝ってもらってテント横に置くと焚火の側で座って待つことにした。

「虫豸の大群以外大した障害はありませんでしたね」

「……虫を鷲掴みしておきながら大した障害はないって言い切れるアンタは大物だわ」

召喚に使った紙を破き白狐と子狐達を消し去りながらビニール袋を外す私を見て出雲様が小さく呟いた。
出雲様。私、出雲様のお側に居られるなら何だって出来るんです。だから虫豸を鷲掴みにする事くらい、何て事は無いのです。
ビニール袋を裏返して小さく結びながら私は口元に笑みを浮かべた儘何も言わず、頭の中だけで出雲様へと言葉を返した。

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