謎の男子生徒はまさかの巨乳女性だった。
遊園地で幼い男の子の霊を探す任務中急に観覧車付近が物凄い破壊音が聞こえたと思えばぐらりと地面が揺れて周りの建造物が崩壊を始める。余震は無く地震が収まった後椿先生から速やかに遊園地出入口へと集まるよう指示され、出雲様と志摩を連れて出入口へと向かった私達の目に映り込んで来たのは制服や顔に血が散った奥村兄を脇に抱えて何処かへ向かう赤髪の女性だった。後から遊園地から出て来た奥村兄と一緒のグループだった筈の杜山さんに出雲様が何があったか聞いても彼女にも何があったのか分からないらしく曖昧に濁されるばかりだった。その後椿先生から現地解散を告げられ私達は煮えきらない思いを抱えた儘更衣室に置きっぱなしだった荷物を取りに戻るしかなかった。


「こう暑い日って普通はプールの授業じゃないんですか?何で球技…」

「さあ?あたしは嫌よ、プールの後って色々面倒だし」

広い体育館を四つに仕切りバレーにバスケ、バドミントンに卓球と各々が好きな球技を選択して授業をする中、自分達のバレーの試合の順番が回って来るのを三人固まって冷たい床に座り込んで待つ私達の視線の先にはバスケの試合中の勝呂ら京都三人組の姿が映し出されていた。

「まだ三限なのにあんなに動いたら四限寝ちゃいそう…」

勝呂とボールの取り合いをしている志摩を見つめふふふと笑う朴さんに出雲様がアイツの事なんか気にしなくていいの!と目を吊り上げてぷりぷりと怒るのを宥めながら私は広い体育館をぐるりと見渡す。
体育館は広い上に四十人程のクラスを四つの球技に分けてしまっては試合も出来ないという事で体育の授業は数クラス合同の形をとっていて、今日はたまたま京都三人組のクラスと一緒になった。

「出雲ちゃーん!見た見た?今シュートしたん俺でっせ!!」

「……ウザッ」

くるくると回転しながらリングを潜るボールを放ったのは話題の志摩だったらしく、体育館のコートを四つに仕切るネットの向こうでぴょこぴょこと跳ねる志摩に出雲様の眉間に皺が寄る。今日の出雲様は百面相だなあ、そう思っているとバレーの試合中のコートから誰かがサーブミスしたのか此方に勢いのついたボールが飛んで来る。きゃあと声をあげて頭と顔を隠す朴さんと出雲様を庇うように膝立ちになると正面から飛んで来るボールをアンダーハンドで打ち上げて私達の近くにいるチームへボールを繋いだ。

「おい、大丈夫か?」

「問題無いよ、レシーブくらい」

丁度バスケの試合が終わったらしくタオルで顔を拭きながらネット越しに此方を見遣る勝呂に肩を竦めて笑うとバレーの試合も終わったらしく、同じチームの女の子達に呼ばれたのでタオルを置いてコートへと入る。先程のサーブミスをしたらしい子に謝られたが気にしないでと言って笑っておいた。


塾が終わった後トレーニングルームを借りて射撃の練習をしていると隣に誰かが立つ気配がして横を向くとふわりと赤髪のポニーテールを揺らした霧隠先生が此方を見てにやにやと笑っていた。何か私に用事だろうかと考えながら小さく会釈すると霧隠先生は持っていた木刀を支えにして姿勢を崩して緩く首を傾けた。

「獅郎の教え子ってのはお前か」

「はい」

「…獅郎が今、何処で何してっか。知ってるか?」

「? いえ…塾の先生や…奥村兄弟も、教えて、くれなく、てっ」

マガジンを入れ替えつつ銃を撃ちながら途切れ途切れに質問に答えた私に霧隠先生はどいつもこいつも甘チャンだな、と吐き捨てるような呟きが聞こえ頭の中で首を傾ける。霧隠先生もセンセイと知り合いなのだろうか?ならば今センセイが何処に居るのかも知っているのかもしれない。普段は塾や任務先でのやんちゃぶりを話してくれる塾の先生達も「センセイは今何処に居るんですか」という問いにはまるで口裏を合わせているかのように曖昧に笑ったり、ちょっと遠い所かな、と濁されてはかわされてばかりだったのでそろそろ理事長に直接聞きに行こうとしていた所だった。

「先生はご存知なんですか?」

「……ああ。知ってる」

十分間の射撃プログラムを終えて休憩しようとバッティングセンターのような作りの部屋から出ると、ちょこちょこと後ろから霧隠先生がついて来るので思い切って質問をぶつけて見るとあっさりと肯定が返って来た。なら、と核心に触れようと開きかけた私の口は後ろから伸びて来た手によって塞がれてしまい続きを紡ぐ事は叶わず、振り返ってみれば私よりも遥かに大きい理事長が手袋をした右手で私の口を塞ぎ静かに私を見下ろしていた。多忙な職のせいか隈が浮かぶその瞳はまるで何も聞いてはいけないと言われているような気がして、ぞわりと背筋に寒気が走り慌てて理事長の視線から目を逸らして口を塞ぐ手を叩いた。

「おっと、これは失敬!ワタクシ目の前によく喋る口があると塞いでしまいたくなる悪癖がありまして…」

「……メフィスト。テメェの手引きか?」

「何の話でしょう?シュラ、生徒に個人的干渉とは感心しませんな」

「テメェもがっつり干渉してんじゃねぇか。コイツにアサルト渡したのはお前だろー?んん?」

頭上で繰り広げられる言葉の遣り取りに身体を縮こませる事しか出来なくて困っていると、塾生の帰宅を促しに塾内を見回っていたらしい奥村弟が通り掛かり目を丸くさせているのが見えて朧気にしか覚えていない手話で助けを求めてみた。
青筋を浮かせ理事長に詰め寄ってきた霧隠先生の豊満な胸とひょろりとした理事長の腹に挟まれる私の助けを求めるサインを感じ取ってくれたのか、一瞬あからさまに面倒臭そうに眉を寄せるも眼鏡を押し上げ溜め息混じりに此方へと近付いて来た。

「シュラさん、フェレス卿!生徒の下校時間なんですから名字さんを解放してあげて下さい!」

「ビビリメガネのくせに偉そうだにゃー?アタシに指図すんのはまだまだ早ぇーんだよ」

何とか奥村弟に引き摺り出して貰うとちぇっと唇を尖らせた霧隠先生は私がいつも持ち歩いているハンドガンへと目を落として小さく息を吐き出した。どうやら奥村弟と霧隠先生は面識があるらしく話は早くも私から奥村兄の話へとシフトしていく。
奥村兄と言えば遊園地での任務の日、霧隠先生に連れて行かれた後の奥村兄は少しだけ様子がおかしかった気がする。私や出雲様達が知らない水面下で何か大きいな物が蠢いているような気がして僅かな焦燥を覚え、何となく視線をさ迷わせると此方を見つめる理事長とばちりと目が合い私の身体はまるで石になったかのようにぴしりと固まってしまった。

「……貴女はこれから非情で残酷な現実を知る。しかし決して其処で潰れてはいけません。貴女は泥を啜ってでも起き上がり歩みを進めるのです」

何かを言い合う霧隠先生や奥村弟には聞こえていないのか、はたまた理事長が物凄く小声で囁いているのかは分からない。ただ、理事長の紡ぐ言葉がまるで蜘蛛の糸のような細く粘っこい鎖と化して私の身体に纏わりついてくるのだけは分かった。

「藤本獅郎の教え子だった貴方なら、きっと出来ると皆は信じていますよ」

これだけ言われても結局話の核心は見えてこなかった。私も水面下に引き摺り込まれようとしているのだろうか?
何も分からない私はただその時を待つことしか出来なかった。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -