正十字学園高等部校舎内のとある女子更衣室。私は目の前で繰り広げられている状況に未だにあまりついていけていない。確か授業が終わった後いつもは塾の時間までお喋りする出雲様と朴さんの輪に加わっていたのだけど、今日は塾生全員任務に駆り出される為早々に目的地へ向かわねばならず、お喋りは無理だねと朴さんが肩を落とした所に――。

「うわああ、ボタンって難しいねっ」

「ええと…正直目のやり場に困るんですが…」

私の目の前に立つのは胸元を肌蹴させた杜山さんがブラウスのボタンと格闘する姿で。
きっちりと着せられているのにスカートは短く、白のニーハイは太股に食い込み杜山さんが大袈裟に腕を動かすせいで胸がたゆんたゆんと揺れ徐々に皺を寄せて乱れていくブラウスに私は思わず顔を覆ってしまった。女の私から見てもいやらしいってどんな身体だ!怖い!箱入り娘怖い!
生まれてこの方着物ばかり着ていたせいで洋服の着方がさっぱり分からないという杜山さんは動きやすいように理事長から支給してもらった制服を持って出雲様と朴さん、そして私を訪ねる為にわざわざ学園へと足を運び、周りの視線を浴びて顔を真っ赤にしながら制服の着方を教えてくれと言い放ったのだった。

「名前、この子のボタン留めて」

「名字さんごめんね、ありがとう」

出雲様に言われて肌蹴たブラウスのボタンを留めていくと半泣きだった杜山さんにお礼を言われた。目の前に広がる豊満な胸に頭の中にでれでれとだらしなく顔を緩ませる志摩が浮かんでくる。ふふふ、志摩め。羨ましかろう。私が、私のこの指が羨ましいだろう!
杜山さんのブラウスを処理すると出雲様が私にリボンを手渡してくる、どうやらこれもやれと言いたいらしい。いそいそとブラウスの裾をスカートの中に押し込む杜山さんを見ながら私は襟にリボンを通し慣れた手付きで結んでいく。

「出来ましたよ、杜山さん」

「おかしい所ないかな?」

「大丈夫です。それより時間が…」

リボンやスカートの裾を弄る杜山さんを視界の端に収めながら更衣室の時計を見上げると、とっくに学校を出る予定の時間を過ぎていて私達の頭の中に遅刻という二文字がよぎる。空いているロッカーに三人の荷物を詰め込み出雲様は胸ポケットに白狐を召喚する紙を、私は太股に聖銀で作られたナイフの入ったポーチを取り付ける。杜山さんの頭に朴さんが預かっていた緑男のニーちゃんだったかネーちゃんだったかを乗せれば準備は完了だ。スカートのポケットに愛用の二つ折りの財布が入っているのを確認すると私達は朴さんに手を振って慌ただしく更衣室を出て集合場所の遊園地へと向かう為に正十字学園のバス停へと疾走するのだった。


「すみません…!遅くなりました!」

バス停から直ぐの遊園地の入口へと走って向かうと其処には既に塾生や先生方が揃っていた。祓魔塾塾長であるメフィスト・フェレス理事長の銅像の台に座っていた京都三人組や奥村兄、今日の任務についての書類を挟んだバインダーを持った奥村弟が驚いたように目を見開く。その視線の先は勿論杜山さん…というより杜山さんの胸元だと思う。既に塾生内で一番成績が悪い奴と塾生内で一番軟派なな奴の顔は弛みきっている。

「……皆さん正直ですね」

「……馬ッ鹿みたい…」

「あ、私は勿論出雲様が一番魅力的だと思っていますよ!よく言うじゃないですか、貧乳はステータスだ、稀少価っっへぶ!」

ぼそぼそと不満を口にする出雲様に親指を立てながらいつか何処かで誰かが言っていた台詞を引用する私と、杜山さんを驚いたように見つめる奥村弟を茶化す奥村兄が各々にどつかれたのはほぼ同時だった。加減していただいてるとはいえ正面を平手で叩かれた悶絶する私に対して文句を漏らす奥村兄を遮り奥村弟は私達を複数の組に分けていく。

三輪、宝。山田、勝呂。奥村、杜山さん。そして私、出雲様、志摩。
組み分けを聞いた瞬間私は歓喜し、出雲様は厄介な奴等が全部回って来たと眉間に皺を寄せた。志摩は嬉しいと苦々しいをまぜこぜにしたような表情を浮かべていた。多分アタック中の出雲様と一緒になれて嬉しいけどおまけに出雲様を堅くガードする私が居るから苦々しい顔をしているのだと思う。
奥村弟が今回の任務についての説明を進めていく中、私は真っ直ぐ志摩を見つめていた。その顔は多分悪女のようなものだった事は自覚出来る。奥村弟の説明を聞きながらちらりと私を見遣る志摩を見下したような目で見下ろして優越感に浸る。そして実感する。志摩は私の恋敵だという事を。

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