「無事全員候補生昇格…おめでとうございまーす!」

小さい破裂音と共に私達の目の前で"祝・候補生昇格おめでとうございます!!!"と書かれた横断幕を咥えた鳩が飛び、紙吹雪と共に招き猫や達磨、福助が飛び交う。
各々試験に合格した事を喜ぶ中で隣に立つ出雲様も安心したように息を吐き出した。彼女の隣に居るのは私だけで、反対側に朴さんはもう居ない。
出雲様は強い。傷ついたり挫折しても、直ぐに立ち直れる強さを持っている。だからこそ朴さんが辞めた後もこうやって塾に来ているし試験の時には無事に反抗していた白狐を再び従わせられる事も出来た。私は持っていない彼女の強さ、そんな所に私は惹かれたのだ。そしてその出雲様をお守りするという使命を背負えば、私も精神的に強くなれると思ったのが事の始まりだった。


「出雲様、もんじゃおいひいれすね」

「美味しいのは分かったから食べながら喋らないで」

こんなに暑い日なのに理事長の奢りで熱いもんじゃを食べる羽目になった。この負の連鎖は正直堪ったものではないが、塾のせいでバイトも満足に出来ない手前奢りという響きは大変魅力的だった。そしてそれは周りの塾生も同じだったらしい。

もんじゃを食べながら周りの話に聞き耳を立ててみれば、私の中で朴さんの次に塾を辞めそうだと思っていた杜山さんが祓魔師になるという決意を固めたらしい。
もんじゃを食べながら後ろを振り返ると志摩と目が合ったのでにこりと微笑んでみせると、彼は引き攣ったように口元を上げ乾いた笑い声をあげた。こんな男が恋のライバルだと思うと何だか余裕が持てる。私が女だというハンデを入れたとしてもスケベで頭がピンクで鞄の中にやらしい雑誌を忍ばせてあるコイツには勝てる自身があった。
其れに私は最近出雲様が"アイツ鬱陶しくて疲れる"と朴さんに志摩の愚痴を漏らしていたのも知っている。なので「テメェ出雲様に何してくれとんのじゃゴルァ」の意を込めて、先日の調理実習時に用意してきたとっておきの型抜きクッキーをプレゼントしてやったのだ。
志摩はそのクッキーを見て失神したらしい。思い出したのだろう、直ぐにぎこちない笑顔の儘私から目を逸らした。

「志摩。ココア味のクッキーはちょっとリアル過ぎたかなごめんね今回は型持って来たからもんじゃ出来た後にこれで型抜いてあげる」

「ノンブレス棒読みぃいいい!!辞めて!名字さん後生やからそれだけは辞めたって下さい!あああ助けて坊んん!」

私が懐から出した物を見るなり志摩が悲鳴を上げて周りから白い目で見られている。私の背中合わせに座っていた勝呂が後ろから私の手の中の物を覗き込み納得したように頷いて私の手から型を取り上げ暫し眺め、よお出来とると呟いた。

「志摩、菓子の型抜き位で騒ぐな。みっともないえ」

「え」

「坊は分かってないんですよ。最近のお菓子言うんは進化しとるんです。虫そっくりに作ったり!」

勝呂の言葉に何より驚いたのは私だった。いつも勝呂達は三人仲良く固まっていたからてっきり志摩の味方をすると思っていたのに。明日は雨でも降るかな、と考えながら勝呂から型を返してもらった。菓子で作った昆虫がいかに邪道なのか熱弁する志摩は放って、へらで掬った熱いもんじゃに息を吹き掛けて冷ます。
とろとろに溶けたチーズが美味しくてつい手が進んでしまう。周りのラムネの瓶が汗を掻いて水滴を作る中、一人だけ別に頼んだグラスの茶を飲みながら猫舌じゃなくて良かったと改めて私の両親に感謝した。


腹が八分程に満たされた所でヘラを置きメフィストさんが使っていたうちわをお借りして暑そうにブラウスの第二ボタンを外す出雲様を扇いで風を送る。食べ盛りの男子達はまだまだ食べ足りないようで更に注文をしていく。私達はかき氷を食べて身体を冷やそうと席を立って店の前にあるベンチへと移動する事にした。
レモン味のかき氷をプラスチックのスプーンでゆっくり味わっていると、隣でイチゴ味を食べている筈の出雲様が手を止めて私を見ているのに気が付いた。怒り、悔しさ、疑問…色々な感情が渦巻くその瞳に彼女の言いたい事が何となく分かった私は口を開いて説明を始めた。
銃の練習を始めたのは去年の春。本物を持ってもいいと許しが出たのは卒業式の後。今まで黙っていたのはセンセイに無闇矢鱈に言いふらしてはいけないと言われたから。言い訳のような口調になってしまったが出雲様は責める事も怒る事も無くそう、と短く呟いた。

「あたしを守るって決めたんならちゃんと横に居なさいよ。置いて行くなんて許さないから」

「…はい。私はいつでも出雲様を第一に考えてますよ」

"役立たず"は撤回してくれるらしい。遠回し過ぎてなかなか気付かないけど、私の実力を認め"盾"として傍に居る事を許して下さった。ふい、と顔を逸らす出雲様が可愛らしくて胸が締め付けられる感覚を覚える。ああ…お慕いしてます、出雲様!

そういえば肝心のセンセイは今何処に居るのだろう。私にアサルトライフルを託してくれたという事は何処からか私を見ているのか…それなら何故本人ではなく理事長に預けたのか。
センセイに会ってこの喜びを伝えたい。きっとセンセイも一緒に喜んでくれる筈だし、私もセンセイから学びたい事がもっと沢山ある。理事長か奥村兄弟に聞けば分かるだろうし機会が有れば聞いてみよう、そう考えながら火照る身体を冷やす為にかき氷を口一杯に頬張った。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -