私が出雲様の上履きを巡ってどたばたやってる間に塾では旧男子寮で候補生認定試験への強化合宿が行われるという知らせがあったらしい。
四人部屋なのに今は半分しか住んでいない出雲様の部屋で空いた机に拝借してノートを朴さんから借りて授業内容を移していく。ノートの隣には出雲様が預かった私の分の合宿申し込み用紙。

「綺麗な所だといいけど。あーあ、合宿とかあんな奴等と一緒なんて最悪」

朴さんにノートを返しつつ出雲様から用紙を渡されたので失礼ながら用紙を覗かせてもらうと、あらまあびっくり。出雲様の希望称号は手騎士だった。聞けば私が居ない間の魔法円・印章術の授業で白狐をニ体召喚してネイガウス先生に手騎士の才能があるとお褒めの言葉を戴いたらしい。私は巫女の血統だから、と出雲様は鼻をフフンと鳴らしてドヤ顔をしてらした。可愛い。
名前は何にするわけ?と珍しく出雲様から話を振っていただけたので正直に竜騎士を目指そうと考えている事を話した。すると、私が銃を構える姿を想像したのか出雲様が盛大に吹き出した。

「はぁあ?竜騎士って銃火器を扱う称号でしょ?無理無理、アンタみたいなのには向いてないわ。せいぜい医工騎士がお似合いよ」

「朴さんは決めたんですか?」

「ううん…称号とか、候補生とか、あんまりよく分からなくて」

「いいの!朴は私が守るんだから!」

瞳を輝かせる出雲様と困ったように笑う朴さんを見てそういう問題じゃない、と思案を巡らせ心の中で溜め息を吐いた。絵に描いたような一般人の朴さんにとって祓魔師はファンタジーの世界のような話で、悪魔を祓う自分のイメージが出来ていない。彼女の良さは運動神経でも精神力な強さでもなく、自覚のある出雲様の性格の悪さすら包み込む優しさなのだから。
合宿の参加と希望称号の竜騎士の欄に丸を書き込みながら私は重い溜め息を吐き出した。悩みはまだまだある、私が塾を休んだ日から私達に杜山さんが加わってきた事だ。塾の間は何をするにも何処に行くにも必ず後ろから杜山さんが付いて来て、男子達の間でも専らの噂になっている。
杜山さんが嫌なわけではない。見るからに箱入り娘で内気な彼女はきっと同性の友達が欲しいのだろう。しかし彼女は何故出雲様に友達になって欲しいと言ったのだろうか…。出雲様なら平気でその気持ちすら利用する人だと言うのに。

(それに、あの状態は明らかに…)

薬草学で使う薬草を準備させたり、ジャージの入ったバッグを持たせたり、配布物を代わりに配らせたり…完全なるパシりだ。
友達になりたいと言って来た子にパシらせるなんて…まさに外道です、出雲様!そして其れを友達の為だからと嬉しそうに引き受ける杜山さんに少しだけ憐憫の情を抱く。仮初の友情でもあんなに喜ぶなんて、杜山さんは相当嬉しいのだろう。
しかし出雲様の身辺のお世話をするのは私の役目なのだ。塾にいる間は何もやる事が無くて正直退屈すら感じてしまうくらい。

「はー…」

出雲様の明日の授業の準備を終えて部屋へと戻りながら重い溜め息を吐く。あと数日もすれば合宿、そして候補生認定試験だ。試験ってやっぱり学力テストなのかな、そう考えながら部屋に戻り風呂に入る為に小さな箪笥の引き出しを開けた。

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