・廉造視点

それはいつものようなお泊まりの日…になる筈やった、ある金曜日の夜の事。
塾が終わった後、坊や子猫さんから野次を浴びつつ寮長に外泊届を提出して寮を出る。たんまり出された学校と塾の課題を詰め込んだ鞄を提げて歩きながら小さく溜め息を吐き出した。
俺は今名前ちゃんに対して複雑な思いを幾つか抱えとる。一つは塾。普通に勉強する塾や思っとる名前ちゃんに悪魔や祓魔師についての説明は出来なかった。知らないなら其れでええやん、巻き込む必要は無いんやしと開き直ったものの、候補生になってから毎日のようにある実技や雑用のような任務にへとへとになっている俺に怪訝そうに首を捻る名前ちゃんを見る度、罪悪感を抱くようになってもうた。

もう一つが塾の件よりも非常に、それはもう深刻で俺は毎日のように頭を悩ませていた。その悩みというのも、付き合い始めてから名前ちゃんの肌の露出度が異様に上がった事やった。今までチノパンやらハーフパンツが普段着で一番短いショートパンツには必ずタイツかレギンスを合わせとった名前ちゃんが、急にタイツを捨てて生足を晒け出すようになった。メッフィーランドで霊探しに行って、結果的には奥村くんが霧隠先生に悩ましい部分に顔をぱふぱふされるのを見せつけられただけやったという任務の帰り、何だか悔しくて霧隠先生と同じ位ボインな名前ちゃんに慰めてもらおうと誘えば、駅まで迎えに来てくれはった名前ちゃんは身体にぴったりあったTシャツにショートパンツ、ミュールを履いてにこにこと笑っていた。
Tシャツから覗く谷間にも勿論目が行くも俺がびっくりしたのは外で名前ちゃんが生足を出しとった所やった。そしてその生足の神々しさと言ったら!
名前ちゃんがくるみという名前で初めてエロ大王に載った時、"高貴なる御御足"と付けられた通称を思い出す位その足は綺麗やった。雑誌や彼女の部屋で見るのとは全く違い、日の光に照らされた彼女の足からは何かしらオーラのような、フェロモンのようなものが出ていたと思う。
今まで抱き締めたり抱き付かれたりする度、よく彼女の胸が俺の胸やら背中に当たっていたが其れはマシュマロか何かやと思い込む事で何とか耐えていた。…が、あの時の御御足はアカンかった。色々はち切れそうな気がして、駅では知らん振りをするので精一杯やった。

マンションの端にある階段から名前ちゃんの部屋のある階まで上がっていく。足取りが重いのは塾や御御足ではなく自分自身に対して悩みを抱えとるからやと思う。
名前ちゃんが御御足解禁するんは嬉しい。寧ろ最初の頃はチノパンやジーンズで足を隠す彼女に対して勿体無いと感じた程だった。好きやったのはくるみとして紙面デビューしてから。名前ちゃんとして好きになったのは遊園地に遊びに行った時位。…名前ちゃんも俺ん事が好きになったんは風邪引いた頃や言うてたから軽く二ヶ月は所謂両片想いやったという事で。
今月の俺の誕生日に付き合い始めて、メッフィーランドに任務行って本格的に俺の性的葛藤が始まり。更に来週からは期末テスト、其れが終われば終業式と共に三日間の合宿がある。合宿までには何とか大人の階段を上がるのが目標やったけど、幾ら"エロ魔神"の称号を持つ俺でも所詮は童貞。悲しい事にその目標は果たせない儘、この週末が合宿前の最後のお泊まりを迎えてしまった。

「名前ちゃーん、廉造くんが来はりましたよー」

名前ちゃんも俺が童貞やいうんは知っとるし、焦る必要もないと慰めてくれたお陰ですっかりその言葉に甘えてしまっていた。
いつかは紳士的なエスコートでコトに及びたいけど、其れはまだまだ先の話。このお泊まりもきっと何もない儘終わるんやろな、諦めを抱いて名前ちゃんから手渡された合鍵を使って部屋の扉を開ける。玄関と居間に通じる廊下は暗く、閉じられた儘の居間の扉の擦りガラスから白い蛍光灯の光が俺を照らす。鞄を下ろして靴を脱ぎ、端に寄せて上がり込む。相変わらず夏は面倒な位に暑くて敵わない。取り敢えず着替え貰ってシャワー浴びて、それから…と寝るまでの予定を立てながら居間の扉を開けると、ふわりと鼻を掠めたのは名前ちゃん愛用のシャンプーの甘い匂いとアルコールの匂い。そして胸にはマシュマロの感触。

「おかえり、れんぞ」

ふにゃんと表情を緩めて微笑む頬が上気した名前ちゃん。とろんとした瞳に舌足らずな口調、テーブルの上には空になって転がる二本の酎ハイの缶。どう見ても酔っている彼女に嫌な予感が頭をよぎり、心の中で頭を抱えた。何でこないな事になっとんねん!

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